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理想の彼女

背があんまり高くなくて、すこしし痩せていて、小声で、長髪で、もちろん髪の色は黒で、足首が細くて、ときどき七分丈のジーンズを履いた時に見えるイメージなんですが、おまけに目がほんのちょっと釣り上がっていて、いつも不機嫌そうに見られるのだけど、そういう自分のイメージにやや嫌気が差していて、女子校にいた時はいつも頼られるタイプだったんですけど、本当はもっと人に甘えてみたいという気持ちを抱えていて、でもなかなかそういう機会もなくて、例えば数字にはめっぽう強くて、消費税とか割り勘の計算がすごく早くて周りがびっくりするもんで、むしろ頼られたりして、おまけに記憶力も良く、人の話を聞いているとつい前後の矛盾に気付いてしまうもんだから、男の自慢話を愛想良く聞き流すこともできず、そもそもオレ包容力あるほうなんだよねー、なんて言うようなのに限ってロクな男もおらず、ミステリ小説など読んでは犯罪でも犯せば名探偵に捕まえてもらえるかもなどと妄想し、これって一種の白馬の王子様幻想じゃないかと気付いては凹み、仕方がないので一人で晩御飯を作っては食べ、しかし力を入れるくせに不器用なところがあっていつも調理に失敗し、焦げたハンバーグを黙々と食べているととつぜん涙がひとすじ溢れ、明日こそ積極的に人と話し、人の誤ちを許し、自分も許してくれるような人を探そうと決意しては同じ毎日を繰り返す、というキャラクタを妹が捨てた服を着て毎晩一人で演じている僕を認めてくれる人なら、あとはなんでもいいです。

 

2007/08/27

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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