京阪車内で死んだ鎌田にふたたび会った。中書島をすぎたあたり、とつぜん隣の車両から彼が現れたのだ。
「あれ?珍しいな」彼は言った。「京阪乗る人?おけいはん?」
昼下がりの車内はがらがらだったが、うとうととしていた初老の男性が鎌田の声で目を覚ました。そして存在感のない、死んでいるのだから当たり前の話だが、それでいてアクの強い風体の彼を、遠目にじっと見つめている。
「そっちこそどこへ?」僕は座ったまま、彼を見上げて言った。
「楠葉」と彼は視線を逸らせながら答えた。
「何をしに?」
「ウィンドウショッピング、かねぇ。いい天気だったからね」そう言って、彼は弁明するような表情を見せた。「最近わりと暇でさ」
僕は頷いた。
彼も頷いて、一瞬黙り込む素振りを見せたが、結局はまたすぐ口を開いた。
「そうそう、選挙結果見たか」
「見たよ」僕は言った。
「圧勝だったな」
「そうだね」
「どうだ?」彼は立ったまま僕を見下ろして言った。
「どうだ、とは?」
「言った通りだったろ?圧勝って」
ああ、こいつはこういう人間だったなあ、と僕は久々に思い返した。
2005/09/12
この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。
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幻の青い麺
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