ファミリーマートで死んだ鎌田に会った。
「お?久しぶりじゃん」と鎌田は言った。「どう、元気してた?」
僕は一瞬虚をつかれて、何も答えられなかった。だってそうだろう。サンデーを立ち読みに来たら死人に会うなんて。こんなことは初めてだった。僕はこれまで霊や超常現象の類を一切信じてこなかったのだ。
それでも僕は平静さを装って「まあぼちぼちかな」と答えた。すると鎌田は笑いながら「なんだよー、相変わらず覇気がない奴だなあ」と言った。
鎌田はブルガリアのヨーグルトを二つ、手に持っていた。彼は昔からヨーグルトが好きだった。「そうなんだよ」と彼は頷く。「物心がついた頃から好きだったんだ」
「そうだったのか」僕は言った。彼は高校の同級生だったが、中学はお互い県の端と端だったので、昔のことはまるで知らない。そのかわり、大学は一緒だった。少しの間だけだが。
そんなことを思い出してから、ようやく彼が僕の、まだ口にしていないことに口を出したことに気付いた。ふと見ると、彼は満面の笑みを浮かべていた。「すごいだろ?」確かにすごいと僕は思った。その思いも読み取ったか、彼は満足そうだった。「他にも色々出来るようになった。死んだら何でもアリになる」
「例えば?」僕は尋ねる。
「飲まず食わずでも五日くらいなら平気になった」
「便利だ」
鎌田は頷いた。「あと、二週間くらいまでなら未来も見える」
「衆議院選挙はどうなる?」僕は問うた。
彼は答えた。「選挙なんかあるのか?」
2005/09/02
この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。
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