年が明けて正月ムードが落ち着いてくると、受験シーズンに便乗したCMや商品が増えてきて、私はいつも憂鬱になる。受験が楽しくて仕方なかったという人には申し訳ないが、少なくとも私は、中学受験も高校受験も大学受験も、もう二十年以上も昔の話なのにも関わらず、思い返すたびにつらい気持ちになるのだ。
クリスマスやらバレンタインデーやらオリンピックやら、タイミングにあわせて商品やサービスを売るというのはマーケティングの基本だろう。恵方巻が話題なら、恵方おにぎりだろうと恵方ロールケーキだろうと売ればいい。
でも受験は、ただの時事の出来事ではなくて、受験生たちの、大げさに言えば人生を左右するイベントである(そんな受験制度でいいのかという話はさておく)。その重圧ゆえに、受験生本人はもちろん、その周囲の人達も、どうしても重苦しくつらい日々を送ることになる。それなのに企業はCMで「みんな頑張れ!」と気軽に言ってみたり、しょうもないダジャレで商品にご利益があるように見せかけたりしている。
そういう、しょうもなさこそを伝えたいという意図はわかる(たまには笑って休んで、みたいな)。悪気があるわけではないのだろう。みんな受験で頑張ってほしい、風邪などひかないでほしい、時間通り試験会場にたどり着いて学んできたことを全力で発揮してほしい、だからがんばれ! みたいな。そういう気持ちはわかる。
でもそんなこと言われなくったって受験生はわかってるし、少なくとも私は赤の他人にそんなことを改めて言われたくないし、受験シーズンになって急に受験生に呼びかけてくるような企業には絶対に言われたくないと思ってしまう。
まあ、これは私が天の邪鬼なだけかもしれない。世の中にはああいう周囲の応援を素直に受け止めて喜ぶ人のほうが多数なのかもしれない。便乗商品だって売れてるから増えているわけで、受験生なのか、その周辺の人達なのか、それなりに多くの人が喜んで買っているということなのだろう。
それでも、残酷なことに受験というのは勝ち負けがある。みんな勝つことはできない。親戚が買ってくれた合格祈願のお守りは、人によっては同じように迷惑に思うかもしれないけど、間違いなく、自分だけに向けられたものだ。でも受験便乗商品は、「この商品にはご利益がありますwww」と半笑いで近づきながら、受験生であれば誰でも相手にする武器商人のように見えてしまう。
受験への便乗をやめろなどと言うつもりはないし、仮に私がそう言ったところで何も変わらないだろう。ただ、受験便乗商品を作るなら、受験生を本当にサポートする施策も一緒に考えてほしいと私は思う。受験生が宿泊するホテルに夜食を配るとか、遠くの大学を受験する学生の交通費をサポートするとか、受験便乗商品の売上の一部で奨学金制度を作るとか。金額の多寡に関わらず、できることはあるだろう。そういう仕組みがあれば、私はもう受験生ではないけど、喜んで受験便乗商品を買う。それが受験生を相手に商売をするってことじゃないだろうか。
現実には、受験シーズンが終わると、受験便乗商品はCMからもスーパーからも、あっという間に姿を消す。頑張ったねとか、お疲れさまとか、次はもっと頑張れるよとか、そういうことを言う企業は見かけない。かわりに流れるのは予備校のCMで、まあ予備校はそれが商売なんだけど、世の中は本当に世知辛い。
2020/01/20
この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。
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