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炎上広告批評:自民党とViVi

旬の事案をみんなが次の話題に移る前にまとめてみます。

 

概要

広告主:自民党

媒体:ViVi(講談社)

種別:ウェブメディアでの広告企画、所属モデルの起用、プレゼントキャンペーン

 

企画の是非

私は広告業界にいるので一般的な感性とは異なるかもしれないが、最初に目にしたときはすでに炎上状態で、どれほどのものかと思ったら、普通の広告企画で拍子抜けした。PRと明記してあるし、中身の是非はさておき(後述)、特別に変な表現があるわけでもないし。企画としては別におかしいところはないよなあと。

 

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— ViVi (@vivi_magazine) June 10, 2019

 

そもそも政党の広告ってもうテレビや新聞には溢れているし、雑誌はどこかがスポンサーについた広告企画ばかりなわけで、その組み合わせが今までなかったのは不思議なくらいである。

 

政党のお金≒税金を広告に使うなという議論はあるでしょう。でも現状としては許されているし、繰り返しだけど、今に始まったことでもない。

 

ViViのモデルが起用されていることも注目を集めているけど、これは昨今では多くのファッション雑誌が紙面の枠を売るだけのビジネスモデルから、所属モデルを使ったインフルエンサー施策、イベント企画などに手を広げているからで、そういう意味ではすごく今っぽい作りである。この場合、ハッシュタグをつけて、SNSの公式アカウントで拡散するまでが広告パッケージでしょう。このあとに政治家と手を取り合うイベントが続いても驚きません。

 

ただTシャツのプレゼントについては、公職選挙法に抵触するという議論があるようです。しかし、私は法律の専門家ではないですが、現実的にこれが司法の問題になっていくリスクは小さいように思います。そういう意味では多少のリスクはあれ新しいことをやってみたというのは、良くも悪くも広告業界っぽい話です。(そんな業界のスタイルが嫌いという意見はあるでしょうし、そういう見方は個人的には否定しません)

 

政治案件を受ける是非

今回これだけ騒ぎになってるのは、ぶっちゃけ政党というのは好き嫌いがあるからで、それは意味のある批判でしょう。自民党のやってることと呼応しているの? とか。広告とはいえもっと実際の政治課題を取り上げるべきでは? とか。

 

政治案件に限らず、広告のメッセージと実態と釣り合ってるのかというのは、どの広告主も受ける可能性がある批判ですし、政権与党の広告となれば尚更でしょう。

 

一方、若者向けファッション誌がこういう広告を受けるのは何事だ、みたいな批判は、ちょっとつらいものがあります。というのも、業界外の人には伝わりづらいかもしれないですが、広告案件を断るというのは、それはそれは難しいことだからです。政治案件はNGと線引きしたところで、じゃあどこまでが政治なの? 政党はNG? 選挙広報は? 特定の政党と繋がる団体や企業は? みたいな問いは無限にあるわけです。

 

もちろん媒体にとっては、実利的に、政治案件でもお金になるならありがたい、という見方もあるでしょう。講談社が断ったら他の出版社に話がいっただろうし、出版業界が断ったらネットメディアに、メディアすべてが断ったら、もっと見えにくい形で、極端にいえばステマ的にやることもできたわけです。それは誰にとってもすごく悲惨な話です。

 

たとえば、講談社が次に民主党の広告を受けなかったら、それはフェアではないでしょう。でもそういう偏りがない以上は、この広告を受けた媒体を責めるのは厳しいなと思います。

 

だからこそ、BuzzFeedの報道であったような、講談社の「政治的な背景や意図はまったくございません」というコメントは残念です。「今後の編集活動に生かしてまいりたいと思います」という定型文も、編集とビジネスの境界が曖昧に見えるので、今の時代となっては危ない発言だと思います。

 

「これは広告企画です、ふだんの編集方針とは関係ない話です、お金をいただいて企画をした、それ以上でもそれ以下でもありません」という割り切りを見せたほうがずっと良かったのではないでしょうか。

 

あるいは反対に、媒体が政権/与党を(あるいは野党を)支持します、と立場を明確にすることがあってもいいと思います。前回のアメリカの大統領選では、各媒体でトランプ陣営の広告を掲載すべきかという議論がありました。ただ、講談社はそういう方向での表明を望んでいるわけではなさそうです。

 

結果的に言えば、新しい形の広告で、これだけ話題になったので、ある程度の炎上は折り込み済であれば、近年の政治広告としては大成功とさえ言えるかもしれません。

 

個人的には、これから国政選挙も控え、国民投票の話なども聞こえてくるタイミングで、政治と広告のありかたについて改めて考える、良いきっかけになって欲しいと思います(なんだか優等生的な言い方ですが、マジでそう思っています)。それ故に、講談社にはもうちょっと良い対応をして欲しかったな、というのが正直なところです。

 

2019/06/12

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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