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夢の女、夢の僕

 僕がこれまでに見た最高の夢は、恥ずかしい話ではあるが、女性に関するものである。僕は中学生で、彼女は高校生だった。彼女はパリッとした白いシャツに、制服の黒いスカートを着ていた。僕よりも背が15センチ高い。同じ電車、同じ車両、ドアにもたれかかりながら窓の外を眺める彼女を、僕は反対側のドアから2メートルの距離でじっと見つめていた。外は夕立だったが、二人とも傘を持っていない。天気予報が一日中快晴だと言っていたのだ。

 ほどなく、僕達は恋人になった。彼女の愛情表現はいつも熱烈だった。ふだんは体内にエネルギーを抱え込みながらひっそりと眠り、ダイナマイトのように爆発の時を待っている。しかし火が点いたら、その時は全く別。ある意味では、それが健全な女子高生というものだった。爆発は様々な形をとる。たまにそれはキスであり、たまにそれは叫びであり、たまにそれはマグカップを僕めがけて投げつけることであった。

 彼女は夢の存在であった。彼女は誰よりも美しかった。体の成長から取り残されたように細い首。何を掴んでも絵になる指と、それを支える手の平、手首、腕から二の腕へと続く計算高いライン、畑から採れたばかりの野菜のようにみずみずしい肩。それからあの耳たぶ。丸くて白く、薄く柔らかな彼女の耳たぶを、僕はいつも見つめ、彼女が嫌がってみせても、機会があるごとに触れようとするのだった。

 もちろん、夢の間は、僕も夢の自分であった。僕は誰だよりもタフであった。僕はキスを受け止め、叫びを抱擁し、粉々になったマグカップの破片を黙々と拾いあげた。僕は現実には口にしないような情熱的な言葉を言った。古い映画のように気取って、比喩としても文字通りの意味としても背伸びを繰り返した。

 夢から覚めた時、僕には何が起きたのか分からなかった。とっさに自分を取り戻すには、それはあまりに深い夢であった。僕はあたりを見回した。彼女はもういなかった。時計を見た。午前四時。まだ太陽の陰もない。自分が現実に引き戻されたことを、僕はなんとかして飲み込もうとした。

 僕は相変わらず同じ電車で大学に通うが、彼女はもうそこにはいない。彼女のキスを受け止めることももうない。18で彼女は妊娠し、同級生と結婚したと聞いた。

 

2006/04/08 - 2006/04/10

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このページにある全ての記述は、特に明記のない限りフィクションです。また著者である小関悠が個人の立場で書いたもので、所属する組織などの立場や意見を示すものではありません。
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