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呉島過去

 三年振りに再会した呉島過去の第一声は「UFOに乗ったの!」。僕はその一言だけで彼女が何も変わっていないことを知った。「信じてないだろうけど」彼女は続けた。「でも乗ったのよ、本当に、もの凄く高く飛んだ」

「おめでとう」僕は言った。「でも逆の立場だったら過去はさ、UFOに乗ったなんて言う僕のことを信じる?」

 過去は言った。「あなたが言うなら信じる」

 そう言われてしまうと負け、元恋人という立場もあって、僕はひとまず自分が彼女を信じるようにした。後になって思ったのだけど、そこには何とない負い目もあったりして。遠距離恋愛は可能だと泣き叫ぶ彼女に「現実に目を向けよう」と宣言して別れたのは、三年前のこと。

「じゃあ僕も信じよう」と一応言ってみて、僕はすぐに後悔した。彼女の目がぎらんと輝いたのだ。

「ありがとう」目を輝かせながら過去。「でもいいの、まだ信じられない気持ちは分かるから」声が弾む。なんと分かり易い人。「だから一緒に会いに行きましょ」

「会うって?何?」

「もちろん、UFOでしょ」

「現実に目を向けよう」と僕は言うべきだったのかもしれない。

 

 ここで私はUFOに乗せられた、と彼女が高らかに宣言した。それは僕達が通っていた小学校の裏山で、少し開けた、公園とも呼べないような公園だった。

「ここ?」僕。「そう」過去。「予想と違った?」

「まあね」僕が言うと、彼女は「先入観は捨てなきゃ」と言った。

 空は陽が沈む頃、あたりには人一人いない。聞こえるのは、風が草木を搖らす音だけ。

 突然、彼女が鞄の中から携帯電話を取り出したかと思うと、おいおいと泣き始めた。

「どうした?」

「再現」過去はぴたりと泣き声を止めてそう言い、またおいおいと泣いた。五分ほど続けただろうか、始めた時と同じように過去は突然泣くのを止め、広場とも呼べないような広場の隅にある木製のベンチに座った。

「まり子とね、電話してたのよ。私はその日、恵一に殴られて…」そう言ったかと思うと、何かに閃いた顔で僕を見た。

「その再現はよそう」僕が言うと、過去は下を向いた。

 

 寒くなって来た。過去は何も喋らない。時計を見ると、丁度十時になったところだった。ぐうう、という音が過去の腹部から聞こえた。

「ごめんね」過去が言った。

「今日は来ないみたいだな」僕は出来る限り優しく言った。すると過去が言った。

「あれ嘘なの」

 僕は呆気に取られて、何も声が出なかった。

「どうしてこんなことしたかって言うとね…」彼女が喋り始めるのを聞かず、僕は立ち上がって歩き始めた。

「ごめん」後ろから過去の声が聞こえる。僕は振り向かずに歩く。いつもより早く。

「ごめんね」ぱたぱたと過去の足音。

「でもね」

 その時、物凄い風が吹いた。両足が一瞬宙に浮くくらいの、猛烈な風だった。コートの裾を巨人が引っ張っているみたいだった。「あ、やっぱり…!」過去の叫び声が後ろから、しかし風に遮られて小さく、遠く聞こえた。

 

 重要なのは今信じるか信じないかではなくて、いつか自分が逆の立場になるという可能性が想像出来るかどうかだと、僕はこの事件を通して思った。

「ごめんね」過去は最後にもそう言った。

「また会えそうになったら連絡してね」

 もうこりごりだと、僕は思った。

 

2002/12/19

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この文章は小関悠が個人の立場で書いたもので、所属する組織などの立場や意見を示すものではありません。特に明記のない限り、この作品はフィクションです。

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