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ペット・セマタリー

 数年前の話。僕は「ペット・セマタリー」というサイトを設け、運営していた。その名の通り、ペットの墓場。ただのペットじゃない。サイトの一番最初で、僕はこう宣言していた。

「ここは死んでも誰からも供養されない、電子ペットの為の墓場です」

 当時僕はかなり熱心なアクアゾーンのユーザーだった。バイトで稼いだ金を熱帯魚に費やしていると言うと、大抵の人は興味深そうな目で僕を見た。その熱帯魚がマッキントッシュの15インチディスプレイの中で泳いでいることについては、誰にも言わなかった。アクアゾーンの熱帯魚は、本物ではなかったかもしれないが、リアルではあった。そして、そんなに安くなかった。育てる為には、随分と時間と苦労を必要とした。苦労、また苦労。要するに、僕は何度も熱帯魚を死に追いやった。温度管理を間違えて茹で上がってしまった魚。病気になる魚。ソフトウェアをバージョンアップすると、共食いする魚まで現れた。ダイアログ「モリーが亡くなりました」OKをクリックするその度に、慚悔の念にかられた。それはある夜、ついに夢にまで見るほどだった。僕がプールで泳いでいると、大きなマウスポインタがやってきて、僕を長々とドラッグし、「ゴミ箱」にドロップして殺すのだ。

 そういうわけで、僕は何より自分自身の魚達への供養の為に、そのサイトを作った。そして、電子ペットの墓を希望する人からメイルを受け取り、その名前と生没年月日、飼い主と飼い主による一言、あれば遺影も、サイト上に掲載することにした。一つ目の墓は、僕自身のために建てた。「2/12-5/8 我が愛しのネオンテトラ、モリー ここに眠る」

 とは言え、キングの小説から名前を拝借したことからも分かる通り、とことん大真面目というわけでもなかった。僕の愛した魚達は結局の所は0と1なのであり、その振る舞いの性質は恐らく一体づつ構造体に数字として収められているのであろうし、生きるか死ぬかはコンピューターが弾き出したランダム関数の値に左右されるのだ。僕はそういった事々をちゃんと認識しているつもりだった。だいたい、ビット列でしかないこそ、僕はアクアゾーンの虜になったのだ。僕はただ夢を見て、なんとなく気持ち悪くなって、そのサイトを作った。それ以上でもそれ以下でもなかった。

 だがそんな風に思っていたのは僕だけではなかった。開設後二週間で1万ヒットを越えた僕のサイトには、次々と墓の設置を希望するメイルが送られてきた。丁度それはたまごっちが流行り始めた頃だった。メイルボックスを開けると、「私の何とかっちが死んでしまいました」なんて文章が次々飛び込んでくる。僕はたまごっちの無縁仏をサイトのてっぺんに設けたが、メイルは止まなかった。

 そういうわけで、僕はそのサイトをやめた。無縁仏をもう一つだけ増やし(最後には7つになった)、これまでに設けた墓がずらりと並ぶだけの形にして、空き地の都合でこれ以上墓は増やせないと宣言した。その時、墓は既に1000を越えていた。

 最後に、僕は友人のやっているサイトに登録した。そこは閉鎖したサイトの跡地を記録するところで、僕はそこに「ペットセマタリー ペットの墓場を設けるサイト 5/5-12/19」と書いた。終わってみれば、それは僅か半年ほどの事だった。ちなみに僕のサイトは、そこでは3864番目の跡地だった。

 

2002/10/22

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このページにある全ての記述は、特に明記のない限りフィクションです。また著者である小関悠が個人の立場で書いたもので、所属する組織などの立場や意見を示すものではありません。
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