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四百字刑事と背理法

犯行現場は古い元刑務所。改装され、今はホテルだ。独房が個室、重い鉄格子もそのままだ。こういう趣向が好きな人がいるんです、と第一発見者でオーナーの田上は他人事のように言う。被害者は三十代の男。格子の向こうで背中を刺されて死んでいる。私は四百字刑事。役場で斡旋された宿に泊まったら、突然起こされて今。密室なんです、と田上は言う。窓はありませんし、天井や壁や床や鉄格子は壊せません。マスターキーはなくしてしまいました。他に客は、と私。いません、閑散期なので他にスタッフもいませんし、冬は宿泊客以外、あたりに住民も旅行者もいないでしょう。私は頭をかいて、じゃあ君が犯人じゃないか、密室殺人の目撃者として泊まるよう役場に頼んだんだろう、と言う。すると田上は顔を真っ赤にして、まだ血のついたナイフで襲いかかってきた。柄にはロープを結びつけたままだ。私はひらりと避け、拳銃で撃ち殺す。片付けはジョバンニに任せよう。

 

2009/02/03 - 2009/02/05

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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四百字刑事と条件付確率
ミステリ研究会の合宿で女が死んだ。餃子に毒が入っていたのだ。餃子は研究会のメンバー、四人全員で作った。メンバーは誰もが毒を入れられる状況で、他の人間は料理に参加していない。そして最初に餃子を食べた女が死んだ。部下のジョバンニが調べたが、他の餃子に毒や目印はなし。いったい誰が犯人なんだ、と研究会の代表、私たちがやるはずがない、彼女ではなく私が死ぬ可能性もあったんだ。最後に食べれば不注意な奴が死ぬだけさ、と派手目の男が言う。毒入りが残るかもしれないじゃないか、と小太りの男。そんな調子で残った三人の学生が喧喧諤諤の議論を続ける。やがて答えの出ないまま静かになり、ようやく私は口を開いた。これは自殺さ。自分で目印をつけて食べたんだ。私は四百字刑事。ここで事件があると電話があったので来た。ただ、なぜこんな真似をしたのかだけが分からなかったけれど、いまになって分かったよ。君達に推理で勝ちたかったんだね。……

父の仕事:猫の鳴きまね
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サラリーマン時代はあまりに安月給だったので、職場に隠れて色々なアルバイトをやっていたよ。知り合いに誘われたものもあったけれど、何しろ内緒の仕事だから、こっそりとアルバイト情報誌で見つけてきたものも多かった。……

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