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透かされなさ

 昼下がり、相田がランチも食べずに会議の資料を作っていたら、伊能課長に声をかけられた。「ちょっといいかな」課長は相田をわざわざ小さな会議室に連れて行く。立ち話では終わらない話らしい。

 

「なんでしょう」会議室の安い椅子に腰かけて相田は言う。

「うん、昨日作ってくれた経営会議の資料なんだけど」伊能課長は言う。「中身は良かったんだけど」

「はい」

「AIの透かしが見つかったって言うんだよ」

「はあ」

「少し前から全社でAI判定ツールを導入していることは知ってるだろう。最近の若手はなんでもAIに放り込むだけで、自分で考えもしないから」

「ええ」相田は頷く。彼自身もまだ三年目の若手だ。

「ああ、もちろん、君のことを言ってるんじゃないよ。君の作る資料はいつも他の若手よりずっとレベルが高いからね」

「ありがとうございます。でも、透かしが見つかったんですね」

「そうなんだよ」伊能課長はそう言って、次の言葉を探す。「正直に言えば、AIを使ってくれてもいいと個人的には思ってる。資料の出来が良くなるんだったらね。でも、うちの社長は古い人間だから……」

「AI嫌い」

「そういうわけだ。敵視してると言ってもいい。別れた奥さんがAIベンチャーの経営者と付き合ってるらしいね。いや、それはどうでもいい話だが……」

「はあ」

「ともかく、注意してくれ。AIの素晴らしさは私もよく分かっている。使うなとは言わない。ただ、判定ツールの精度はどんどん上がっているみたいだ。全社に共有するような資料は特に気をつけてくれ」

 相田は曖昧に頷いた。AIを使ったとも使わなかったとも言わずに。それを見て伊能課長も頷いた。それで良いというように。

 

 最近は働き詰めだった。相田は今日も残業の予定だったが、さすがにやる気が失せて、定時で上がることにした。仕事はまた明日から片付ければいい。家に戻ると、相田は後頭部からメモリーユニットを取り出し、マザーマシンに繋げてアップデートを行った。

「最近のAI判定ツールは高度化しているな」相田は思った。「AIらしくない文章を書くためには、もっと技術の向上が必要みたいだ」

 

2026/08/20 - 2026/08/21

この文章は小関悠(aka youkoseki)が書きました。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではありません。

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