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everything

 僕はつい最近、友達に聞いたんところなんだけど「everything」ってサブジェクトのメールの話はもう知ってる?あ、知らない?いや、別に大して意味のある話じゃないんだけど。

 こういう話ってすぐにバリエーションが増えて、個々の話には色々食い違う所が出て来るんだけど、とにかく「everything」ってサブジェクトのついたメールが送られてくるワケ。送り主は普通、今までに聞いた事の無い名前の人で、ホームページ見ました、とか、メール友達になって下さい、とか、内容は話によってバラバラ。でも、だいたい温厚で丁寧なメールなんだ。後、知っているけど実際には会った事無い人からのメールだった、って話のパターンもあるらしいんだけど。

 で、何が変かって言うと、あれ?あぁ、これ、つまり、変な話なんだけどね。メールの最後の方で、突然「ところで彼女のどこが一番気に入ってますか?」って聞いて来るワケ。突然、変じゃない?あ、もちろん「everything」メールを受け取るのは、いつも男性ね。でも、女性のバージョンがあったら、それはそれで面白いかも。いや、受け取った男の人の話なんだけど、彼は、中にはホームページで彼女を紹介していた様な幸せなパターンもあるらしいんだけど、それにしても変わってるよね。普通のパターンだと「everything」を送ってきた相手は、自分に彼女がいるなんて知るハズが無いワケで。それどころか、彼女もいないのに、このメールが来たって話もあるぐらいで。これ、最低だよね。

 まぁ、なんかキモチ悪いんだけど、文章の他の部分はマトモだし、丁寧だし、一応返事しなきゃなぁ、と思うんだ、彼は。もちろん、話を知っていたら何で返事するんだ、とか思うんだけど、それは後付けだよね。それに、返事をしなければしないで、またヒドイ話になって。あ、えぇと、返事をする所だったよね。とりあえず、その最後の部分以外は普通に返事が書けるんだけど、そこで悩むんだ。でも男はバカっていうか、つい「顔」とか「優しいトコロ」とか書いちゃうんだよね。

 えぇと、どっちにしようか。じゃあ、とりあえず「顔」にした話にしよう。ところが、その返事を送った次の日から、その彼女を見掛けなくなるんだ。さっき、彼女がいないパターンがある、って言ったよね。彼の場合は、高校の時の同級生が好きで、一番好きなトコロを「指」って答えたらしくて。キュートな指だったんだろうね。で、その彼女もやっぱり見掛けなくなって、一週間後、これも次の日、とか、そんな彼女の事も忘れた頃に、とか種類があるんだけど、とにかく今度は家に小包が届くんだ。その小包には、やっぱり「everything」って書いてあって、送り主の名前は、例のメールの送り主で。…もう、中に何が入っているかは分かっただろ?

 あと、もし「優しいトコロ」とか、体の部分じゃないものを書いてた時は、ちゃんと全身が無事に送られてくるんだけど、なんかクスリか何かの影響で、もう全然おかしくなっちゃってるらしくて。それでもどうやったらそうなるのか、すごく「優しい」らしいんだけど。ずっと笑ってくれてたりしてね。「小さくて可愛いから」って言ったら、すごく小さくなって送られてきた、って話もあるらしい。冗談だよね。話だと何か、布団圧縮機にひっかかったみたいな…どうやってやるのかはしらないけど。それから、もしメールに返事をしなかったら、一週間以内に、って話なんだけど、やっぱり彼女は消えて、でも小包は送られて来ないらしいんだ。

 もともと、これは本当にあった話だとかで。何でも十年ぐらい前にある高校生のカップルがいて。で、そのカップルは学校とかでも有名になるんだけど、修学旅行の夜に、彼の同級生の一人に、やっぱり「彼女のどこが好きなの?」って聞かれるワケ。そこで彼は「目。奇麗だから。」って言うんだ。するとその同級生が突然部屋を出て、彼女のいる部屋に走って、彼は慌てて追いかけるんだけど、ちゃんと用意してた小さな、演芸用のスコップで、寝ていたその彼女の目を開けて、掘りだすんだ。彼の目の前で。もちろんその男はすぐに捕まるんだけど、彼女はもう失明しちゃってて。で、男は言うワケ。「どうして?目は好きなら目は君にあげるから。僕はそれ以外でいいから。」その男は結局少年院に送られるんだけど、まだ未成年で、もう今じゃ普通に生活してるんだろうし、でもひょっとしたら、その男がやり遂げられなかった思いを抱いて、もっと巧妙になって、「everything」メールと小包を送ってるのかもしれない、とまぁ、こういう話なんだ。

 まぁ、何だかグロテスクだったし、不幸と言えば不幸な話なんだけど、でもちゃんと抜け道はあるんだ。ちゃんと、何も起きなかったカップルの話もあるし。だからもし、そんなメールが送られてきたら、少し考えれば大丈夫だと思うよ。ところで、前から一つ聞きたかったんだけど、君は、彼女のどこが一番気に入ってるの?

 

 

1998/12/15

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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