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出会う系アプリ:ディスティニー

先輩が結婚することになった。仕事あがりにしょっちゅう二人で飲みに行ってたのに、まったくそんな素振りがなかったから、ただただ驚きだった。

 

どんな人なのか、どこで出会ったのか。語ろうとしない先輩をしつこく問いただして、先輩はようやく話しはじめた。

 

「アプリを使ったんだ。いわゆる出会い系アプリだね。いかがわやつじゃないよ。真剣なやつ。真剣すぎたかもしれない」

 

もちろん、なんというアプリなのか問い詰めた。

 

「誰にも言わないように。ここだけの秘密だから。ディスティニーで検索すると出てくる。ハートマークにDのロゴが描いてあるやつ」

 

家に戻って、すぐディスティニーで検索をしたら、簡単に見つかったので、インストールした。出会い系アプリの名前に「運命」とは、なんと大袈裟なのだろうと思いつつ。

 

起動する。ハートマークにDのロゴが浮かびあがって、すぐ長い文章が画面いっぱいに現れる。

 

「本アプリをインストールいただきありがとうございます。『会員登録』ボタンをタップしていただくと、すぐに運命のパートナーとマッチングします。キャンセルはできません。右や左にスワイプすることなく、すぐに特定の一人とマッチングします。すぐ一人とマッチングするので、相手を選ぶことはできませんが、まったく問題はありません。そしてあなたは今週金曜日にその人と洒落たレストランで食事をすることになります。場所はあなたの職場・家、相手の職場・家を考慮して、近くて、あなたたちの食事の好みにあわせた店が自動的に選ばれます。予約の面倒はこちらがしますので、あなたは会社を定時で退社して19時ちょうどに着くようにしてください。ということはつまり、5分前には着席してください。そこで、あなたがたはお互いが偶然にも同郷であることに気付き、仕事の愚痴など話しているあいだに共通の友人がいることも知り、初対面とは思えないほど打ち解け、互いの趣味の話を花を咲かせて、週末には相手が気になっていた美術館へ行ってデートをしますので、家にある一張羅のジャケットは今日のうちにクリーニングに出しておいてください。二人は二年後に結婚し、そのさらに二年後に女の子を授かりますので、名前は流行を加味しながらも個性的すぎない、最適なものをご用意します。共働きが続くので家事は大変ですが、両親のサポートもあって乗り切りますので心配する必要はありません。あなたは仕事では社内政治に巻き込まれて望むほどの出世はできませんが、穏やかで暖かな家庭を築くことには概ね成功します。娘は大学から一人暮らしを始め、そのまま親元を離れていくので、それまでの時間を大切にしなさい。そうやって定年を過ぎ、お前は平凡な老後を送り、今ここで具体的なことは言えないが、人に惜しまれるほどには早く、しかし自分のなかで多少の満足感がある程度には長く生きて、パートナーよりも先に死ぬ。その先には天国も地獄もないが、お前の名前はしばらくのあいだ、子孫によって語り継がれる」

 

そこで画面には二行ほどの改行があった。

 

「よろしければ『会員登録』ボタンをタップしてください」

 

私はたっぷり画面を一分ほど見つめていたと思う。でもまだ先輩ほどの勇気はないと思って、アプリを閉じ、アンインストールした。

 

(Photo by Nick Fewings)

 

2019/02/06 - 2019/02/18

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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