二人の脚本家がZoom飲みをしながらドラマの原稿を考えている。
「いやー、無理だよ。こういう時代に、どういう物語がありえるんだ」
「私達、もう三密だよ……、みたいな?」
「それはドキドキする。しかし密接と密閉はともかく、密集じゃないでしょ」
「病める時も健やかなる時も密になってくれるか? みたいな」
「いま病める時はちょっと近寄り難くない?」
「お前と密になる前に~みたいな」
「いつもソーシャルディスタンスしろ~」
「できる限りで~」
「出会いが描けない。飲み会もだめ、旅行もだめ、ライブもだめ、バーもだめ」
「前を走る女の子がハンカチ落としたら拾うか、って話になる」
「そもそも学校ないしカーテンもないからね。遅刻しないから、パンを食わえながら走ることもない」
「みんなパンを食わえながら走ってた日々が懐しい」
「いま空から女の子が落ちてきたらどうするんだろう」
「万が一のとき、俺は責任持てるのか? と」
「シー○→パ○ーもあるけど、パ○ー→シー○もあるわけでしょう」
「伏せ字にすればオッケーみたいなの、インターネットのよくない癖だよ」
「出会い系アプリはむしろ流行ってるらしい。友達の友達に聞いたんだけど」
「それでいつ出会うの」
「出会わないんじゃない? ボイスチャットでも入籍証明出る、みたいな話があったじゃん。そのまま別居し続ける」
「いまの時代はフィルターあるから、そっちのほうが気は楽かも」
「夫のポテトが戻らない」
「ポテトが隠語にしか聞こえない」
「別居婚? コロナ婚? 本質だ」
「ごはん作らなくていいし。定型的な反応はbotが打ち返せばいいし」
「どうせ少子化だし。ごはんまだ~からの出前注文までのIFTTT」
「本物のライフハック。いつも返事の遅い旦那より、botのほうが優しかったとかありそう」
「bot NTR!」
「結婚詐欺の新しいフレームワークできちゃう。機械学習で賢くなる出会い系bot」
「アルファ雄Goじゃん……」
「まあでも不要不急とはいえスーパーくらいは行くんじゃない」
「イニシャルQの日にいつもいるの、あの人と私だけ……みたいな」
「クエストラブさんとかかね。あとは薬局とか」
「やだ、あの人もまた開店前から並んでる……」
「お互い買い占めやめろ」
「マスクしてても美男美女って分かるものかな」
「むしろマスク外したら実は……って話では」
「令和の口割け女」
「そういう意味ではアベノマスクいいよね」
「実際に会わないんだったら、人を見る基準自体が変わるでしょ。出演者も変わってくるよ」
「それは継続的にウォッチしたい。そのうち出会うかも、という下心があったら、やっぱり美貌がひとつの基準になるわけだけど」
「じゃあ結婚することになっても出会うことはないんだろうな、という諦めにまで辿りついたら、なにが新しい基準になるのだと思う?」
「金……?」
「ほかには?」
「土地……?」
「お金持ちは余裕があるから外出しなくなるわけじゃん。文字通りの箱入り娘なわけ」
「安部公房もこういう未来予知はしてなかっただろうね」
「でもギグワーカーはリスクを抱えながら外を走り回ってる」
「UberEatsでボーイミーツガールだ」
「油そばの器にどうぶつの森のフレンドコードが書いてるの」
「お嬢様、もうちょっと健康にいいもの食べたほうがいいよ」
「初めて家を飛び出すわけ」
「ロマンスより、たいやき君を感じるのは私が昭和だから?」
「あのシェアサイクルってニケツできたっけ」
「できたかも。あのでかいバッグ背負ったらムリだろうけど……」
「まあでもいつかは日常に戻るとして」
「そう! オリンピックで初めて出会うんだろうな」
「スポンサード感出てきた」
「GoToTravel!」
「モノポリーみたいな命令形やめろ」
「ようやく始まったばかりだからな……このはてしなく遠い2020……」
「ザハ案だったら坂っぽかったのにね」
「こういう話ぜんぶ不謹慎って言われる未来のほうがリアルな気がしてきた」
「未来というか現代だよ。お前の人生が不要不急、って言われたら返す言葉ない」
「ゲームは不謹慎」
「それは一地方の話でしょ」
「外出シーンのある映画はぜんぶ禁止とか」
「禁止じゃなくて、自粛要請なんじゃない? 外出を肯定するような創作物の自粛を要請」
「ジョージ・マイケルのアウトサイドって曲がすごい好きなんだよなー。消される前にもう一回見ておこう」
「濃厚接触の見本市みたいだな……」
「そもそもだけど、コレラの時代の愛、あらすじ知ってる?」
「ガルシアだかマルケスだかいう人が書いたことしか知らない」
「世界で一番最高な小説の、世界で一番最高なラストシーンなんだけど、今の時代と符号してるな、と思うわけ」
「読むからオチだけ今教えて」
「はい、終了」
2020/04/23 - 2020/04/24
この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。
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