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面接をハックする:エピソードのこと

就職活動や転職活動で不思議なのは、選考が面接に偏重していることである。

 

もちろん、一部の職種では技能が見られることもある(エンジニア職では特にノウハウが蓄積されている)。そもそも資格が必要な職種もある。他愛のないグループワークや、SPIのような愚にもつかない試験を課されることもある。

 

それでも、選考の多くが、面接という名目のおしゃべりで済まされることは間違いないだろう。だいたいの選考において、面接は3回から5回くらいあり、それぞれ短くて半時間、長くて1時間くらいとする。相手が話す時間も考えると、のべ1時間から3時間くらいのあいだ、うまく喋れた人が希望の職に就けるということになる。

 

就活ではコミュニケーション力が求められるとはよく聞くが、そもそもコミュニケーション力以外がほとんど見られていないというのが実態である。

 

面接の中でも特に多いのが、エピソードについての質問である。「これまでで一番困難だった出来事と、それをどのように解決したかを教えてください」のような質問だ。仮定のエピソードについて答えを求められる場合もある。「上司から理不尽な仕事が振られたとき、どのように対処しますか」とか「全く知識のないプロダクトのマネージャーに任命されたとしたら、どう仕事を始めますか」とか。

 

一時期はフェルミ推定のような問題(「日本に散髪屋は何人いますか?」)ももてはやされたが、最近はあまり聞かない。出題者の自己満足に終わることが多いと皆が気付いたのかもしれない。本家と言える書籍「ビル・ゲイツの面接試験」にも、この手の問題を出す一番の効果は、受かった人が「自分が難しい問題を解いて選ばれたのだ」と自負できることだ、と書いてあった記憶がある。

 

一見エピソードとは関係のない質問も、実際に求められているのはエピソードである。「なぜ弊社を志望しましたか」に対して「待遇」とか「離職率の低さ」といった直截的な答えは悲しいかな求められていない。「小さい頃からの夢で~」とか「たまたまCMを見て~」みたいなエピソードが必要なのだ。「実家に近いから」という理由があったとすれば「いつも家の近くにあるので気になっていて~」というエピソードへ仕立て上げる能力が求められる。

 

「大学時代の研究内容を教えてください」と面接で言われて、つい学会のように詳細に語ってしまったら落とされる、というのもよくある話である。必要なのは、簡潔で面白みのあるエピソードなのだ。

 

面白いことに、これほど面接においてエピソードが求められているのにも関わらず、エピソードを作る方法というのはあまり話題にならない。

 

ただ、部活、アルバイト、インターンシップ、ボランティア、留学などが特に就活前にもてはやされるのは、そうした体験が結果的にエピソードを生むからに違いない。私の友人で、大学時代にアフリカで一年近く過ごした男がいるが、彼は就活のころ負け知らずだと言っていた。

 

面接で下調べが必要だと書いたのも、エピソードを作るためである。面接官と共通の知人がいるなら、そのことをきっかけに話を進めることができる。面接を受ける企業が最近なにか新しいプロダクトをローンチしていたら、その使い勝手を調べておいて、またエピソードとして披露することができる。

 

そろそろ、うまいエピソードを作る方法を説明すべきなのだろうが、これは難しい。特に、なにか目立った体験をせずにエピソードを作るには、創作の力が必要である。創作といっても、嘘を話せというのではなく、自分でも忘れているような他愛のない出来事をいかに魅力的なエピソードに仕立てるかということである。

 

例えば、私が就職活動をしていたころ、グループ面接で、「小学校からこれまでやってきた部活動を振り返ってください」と言われたことがあった。今思えば、だからなんだよ、という質問だが。

 

私はこういうことを話した:私は小学校のころ友人に誘われてサッカーをやっていた。中学に入って、その友人たちがテニスをやるというので、私もそれに従った。高校では友達と離れ離れになったので、最初に仲良くなった友人に従って柔道をはじめたが、しんどいので一週間でやめた。帰宅部は退屈だったので生徒会に入ったが、特になにもしなかった。そのころネットで文章を書き始めたが、誰も読んでくれないので、大学では劇団に入り、脚本を書くことにした。

 

私の隣にいた学生はこう言った:私はバスケが好きで、小学校のころからバスケをやっていた。中学校でもバスケをやっていた。高校でもバスケをやっていた。大学にはバスケ部がなかったが、社会人の人たちと一緒にバスケをやっている。

 

面接官は私の話に興味を示し、バスケの学生には「またバスケ?」という反応をした。思えば、人間として筋が通っているのはバスケの学生のほうで、私のほうは無茶苦茶である。しかし、エピソード化するというフィルターを通すと、そういう価値が反転してしまう。

 

結局のところ、良いエピソードを作る秘訣は、質問に対して思ったことを答えるのではなく、一つ一つ「この回答はエピソードとして成立しているか?」「自分の経験はエピソードとして面白いのか?」と自問しながら答えていくことなのだろう。面接の本来の趣旨から考えれば、これは実に奇妙な話だが。

 

それはそれとして、面白いエピソードを語れるような、創作の力を得るためには、実際に創作するのが一番である。そしてそのためには特に虚実入り乱れるような、優れた文芸を読むのが最適なのだろう。だから結論としては「就活生はガルシア=マルケスを読もう」と言っておきたい。私の大好きな「コレラの時代の愛」を読めば、エピソード作りはうまくなるだろうし、面接に生かせなかったとしても、面白い本であることには変わりがないのだから、一挙両得だと言える。

 

次は面接のときにどう能力をアピールするかについて書きます。

 

2018/08/08 - 2018/08/12

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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