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「騎士団長殺し」妄想レビュー

「騎士団長殺し」という村上春樹の新作長編が発表されたとき、多くの人は、この騎士団というのは何のメタファーなのかと考えたのではないだろうか。その予想は冒頭から簡単に裏切られる。「東京都西部の暗いほうから」侵攻してきた騎士団長は、山手線圏を目の前にして中目黒で暗殺される。「僕」は騎士団の残党に雇われ、その犯人を探す。内外に多くの敵を抱えていた騎士団長だけに、容疑者は多数浮上する。つまりこれは、村上春樹初の本格ミステリなのだ!

 

展開はいつもどおりに村上作品である。セックスがあり、パスタがあり、プリンスへの追悼があり、サービス過剰なほどだ。しかし、あくまでも筋は犯人探しであり、具体的なネタバレは避けるが、最後にはちゃんとしたトリックと犯人が用意されている。そこには、特に「1Q84」で賛否を呼んだような、煙に巻いた曖昧さはない。井戸で騎士団長の霊と会うシーンは幻想的であるが、ここまではっきりとした「霊」を登場させて語らせるような大胆さは、過去の作品にはなかっただろう。

 

これまで、村上作品とはある種の答のなさであった。それが一転、ここまで答をはっきりと提示した分かりやすい作品に辿りついたのは、どのような心境の変化であったか。これまでの作品と同様に、さまざまな読まれかたをするのだろうが、特に高齢化する日本社会に対する暗喩からは、目を背けるのが難しいほどである。素晴らしいミステリへの挑戦と同時に、文学的な「読まれ方」に対する挑戦となる作品になったのではないだろうか。

 

2017/02/23

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この文章は小関悠が個人の立場で書いたもので、所属する組織などの立場や意見を示すものではありません。特に明記のない限り、この作品はフィクションです。

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