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ホーム、スマートホーム

シリーズ「未来の広告」

 残業を終えて家にまっすぐ帰る。玄関のドアノブに手をかけると、鍵は自動で開く。僕のスマートフォンを検出して、玄関手前の歩き方を認識し、おまけにドアノブで指紋を読み取っているからだ。玄関のライトが自然に灯り、僕の好きなアイドルの最新の曲が流れはじめる。

 

 そして曲は30秒で突然終わる。「本日発売のニューシングルです。何枚購入しますか?」家中に響きわたるアナウンス。「いいえ」僕は答える。

 

 部屋に入ると、冷蔵庫のディスプレイが光り、冷凍の焼売とビール、賞味期限の切れた牛乳だけが中に残っていることを伝える。「牛乳は廃棄することをおすすめします」とアナウンス。「はい」僕は答える。「今すぐ冷蔵庫にログインしませんか。あなたの属性情報に基いたおすすめのレシピをご紹介します。会員登録は無料です」「いいえ」焼売を取り出し、電子レンジに放り込む。

 

「これが最後の焼売です」電子レンジは言う。「これから毎週焼売をお届けします。よろしければ、はいとお答えください。詳細を知りたい場合は、詳細を知る、とお答えください」「いいえ」「コマンドを受け付けませんでした。はい、または、詳細を知る、とお答えください」「焼売はもういらない」「コマンドを受け付けませんでした。はい、または、詳細を知る、とお答えください」「詳細を知る」「焼売定期便のご案内をメールいたしました。同梱の割引クーポンをぜひご利用ください」

 

 焼売が出来上がるのを待って、ビールを冷蔵庫から取り出す。「牛乳は廃棄することをおすすめします」「はい」

 

 食事を済ませるタイミングを見計らい、風呂の準備は自動で行われる。湯加減はその日の天気や、体調を考慮して設定される。「湯加減はいかがでしょうか」アナウンスは浴室で反響する。「ちょうどいい」僕は答える。「よろしければ、レビューを書きませんか。開発者の励みになります」「いいえ」

 

 寝る前にトイレへ行く。「本日二度目のトイレですね」とアナウンス。「プレミアムな洗浄機能をアンロックしますか?」「いいえ」「現在、一週間無料でプレミアム洗浄機能をご利用いただけます。無料期間が終了すると、契約は自動的に有料プランへと移行します。利用する場合は、はいとお答えください」「いいえ」「コマンドを受け付けませんでした」僕は手動で水を流して、トイレを出る。

 

 ベッドに入る。「近くで眠っている友達候補が三人います。友達リクエストを送りますか」「いいえ」電気は少しづつ暗くなる、はずである。しかしその夜は最大限に明かりが灯ったまま。「現在、不具合が発生しております。ご不便をおかけして申し訳ありません」アナウンスの口調は変わらない。僕は布団を頭まで被る。「牛乳は廃棄することをおすすめします」「はい」

 

2017/04/18 - 2017/04/20

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この文章は小関悠が個人の立場で書いたもので、所属する組織などの立場や意見を示すものではありません。特に明記のない限り、この作品はフィクションです。

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