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レストラン2.X

 出張で慣れない街に来て、朝一番からの会議もなんとか終わり、ようやく昼ごはんだと外に飛び出したはいいが、周囲を検索してみるとどれも食べログで2点台というレストランばかりなのだった。中華、イタリアン、蕎麦、ビストロ、ラーメン、カフェ、カレー、なんでも揃っているが、どれも2点台である。会議のあと、なぜ現地の連中がいそいそとコンビニへ向かうのかが分かった。ここは外食不毛の土地なのだ。

 

 とはいえ、もう外に出て来てしまった。コンビニに戻るのはプライドが許さない。そもそも弁当を買ったところで客先では食べる場所がない。仕方なくレストランの集まる商店街へと向かう。店の前を通るたびにスマートフォンに映る点数と、実際の店の様子を比較するが、ランチタイムというのにどこも閑古鳥が鳴いており、良い意味で期待を裏切りそうな店はひとつもない。

 

 それでもランチなら3.1点(ディナーは2.8点)というどうにか及第点の寿司屋を発見したが、店の中にまで入って、奥から出てきた大将に本日はお休みなんだと言われる始末。食べログには年中無休とあったのに、という言葉をぐっと飲み込む。すると次点は2.6点で、私の苦手な辛いタイ料理。検索範囲を広げると、隣駅に4.2点のトンカツ屋があって恨めしい。しかし一時間後にはまた会議が再開する。

 

 幾つか未評価のレストランはあった。重い扉で仕切られた焼肉屋。営業中のようだが、メニューはどこにもない。いったいランチは幾らなのか? あるいは開店したばかりという様子の小さなフランス料理店。ランチはパンにポークソテーにスープがついて1500円。本当に美味しいのなら許すという感じではあるが、なにしろもう何年も食べログ未評価の店を訪れておらず、自分がこの店の評価を下す最初の一人になるということに言いようのない恐れを感じる。

 

 なぜみんなすべてのレストランを評価しないのか。なぜもっと高評価のレストランが存在しないのか。

 

 結局、2.6点のタイ料理と、その隣にある2.4点の中華料理で悩むことになった。タイ料理のほうは、よりによって私の嫌いなトムヤムクンのセット。中華のほうはラーメンに炒飯という何の変哲もない組み合わせである。そして私は、もちろんトムヤムクンを食べた。「ひとつひとつの味つけがいくらなんでも辛すぎる」「店員に愛想がなく、支払の対応も遅い」「店は狭く暗い」みんなレビュアーのいうとおりだった。それでも、この街ではこれが最善の手だったのだ。私は汗を流しながら、会議室へと戻った。

 

2012/07/30

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この文章は小関悠が個人の立場で書いたもので、所属する組織などの立場や意見を示すものではありません。特に明記のない限り、この作品はフィクションです。

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