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NCOH (New Conception Of Home) 4

 平日、午前中に父は出掛ける。黒いスーツを着込み、ブリーフケース片手に「それじゃ、言ってくるよ」と言うその姿は、以前と何の違いもない父である。ただし、出勤の時間はばらばらである。八時前に家を出ることもあるし、十一時を過ぎてようやく着替え始めることもある。かつて、父は毎朝八時五分過ぎに家を出ていた。

 父がどこへ行くのか、私は知らない。父の行動を窓からこっそり眺めたこともあったが、その向かう先はいつもばらばらだった。駅の方へと歩いて行くこともあれば、山の方へと行くこともあった。恐らく父は何の仕事もしていないのだろうと、私は思った。ただ外出し、どこかで時間を潰し、夜になるとくたびれた顔をして家に戻る。その証拠に、かつては残業で家に戻らないことも多かったのに、最近はいつも夜九時には家に戻って来る。

 私は父がいつ、ほんとうのことを言うのか、どんな顔で言うのか、すこし期待しながら待っている。父がほんとうのことを言えば、私もほんとうのことを言おうと思っているからだ。「お父さん、お金の心配なら大丈夫。私にはたくさんの貯金があるから」

 確かに、私にはたくさんの貯金があった。いつの間にか増えたお金だった。私はお金を使わない。一方で大勢の人が、私にお金を手渡す。増えるのも当然のことだった。

 私は自分が、性的な奉仕を売りにしているとは思っていなかった。必要に応じて、必要に応じた手段をとるだけのことだった。それだけのこと。私は決して自分から何かを積極的に行なったりはしなかった。何かを強要したりはしなかった。それは最後の手段だった。

 父が山の方へと歩いて行く。ちっぽけな公園とゴミ処理場しかない山の方へ。その姿を見送りながら、私は自分がほんとうのことを言いたくてたまらないことに気付く。かつてもっとも卑屈な立場で生活を送っていた私が、この新しい家で中心的存在になることを夢見ている。

「新しい家」私は呟く。なんてすてきな響きだろう。

 

(了)

 

2005/02/24

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このページにある全ての記述は、特に明記のない限りフィクションです。また著者である小関悠が個人の立場で書いたもので、所属する組織などの立場や意見を示すものではありません。
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