youkoseki.com

NCOH (New Conception Of Home) 2

 新しい家はかつて伯父が仕事場として使っていた、ワンルームマンションである。伯父が死んで以降は、誰にも利用されないままになっていた。父と私は、探しものがあるからと言って管理会社に部屋を開けてもらった。もちろん探しものはその部屋の鍵である。

 伯父は有名な漫画家だった。私は無愛想な伯父が嫌いであった。父も伯父と仲が悪かった。「あんな仕事、中学生にでも出来る」というのが、よく耳にした父の伯父に対する評価であった。

 六畳一間で父一人娘一人が暮らしていくのは、私にとってはそれほど負担のかかるものではなかったが、父にとっては厳しかったようだ。父はしょっちゅう、こんなことになって申し訳ないと、私に頭を下げた。あんな女と出会わなければ、と父は言ったが、それはそれで私には存在の危機である。

 父は着替えをユニットバスで行った。何の配慮なのかは分からないが、自尊心のようなものなのだろうと思う。パジャマ姿の父が、トランクスやらカッターシャツを風呂場に持ち込む様子には、朝の眠気を覚ます微妙な匙加減の面白味があった。一方で私が着替えようとすると、自然とユニットバスの方へと消える。父は紳士的だ。「出て来てもいいよ」と言うまで父は出て来ない。一度言い忘れたら、半時間以上経ってから「もぅいぃかい」と、か細い声で父。

 ある夜のこと、ふと目を覚ますと父が机に向かって何かを書いているのが見えた。「何してるの?」と声をかけると、父は不自然なほど取り乱し、書いていたものを机の引き出しに片付けながら「今日はもう遅いから早く寝なさい」と言った。

 翌日、父が出勤すると私は当然のように机の引き出しから、隠されたものを取り出した。その引き出しは鍵がかかっていたが、他の引き出しはその引き出しごと抜き出せるので、鍵のかかった引き出しの上の引き出しを抜き出すことで、鍵のかかった引き出しの中身を取り出すことが出来るのだ。

 父が書いていたものは、漫画であった。

 大資産家の息子でありながらその身分を隠してサラリーマンとして働き始めるも(第一話)、上司にこき使われてムカつき、ついカッとなって会社ごと買い上げる(第二話)というストーリー。

 私は見なかったことに、そして第三話を待つことにした。

 

2005/02/15

ツイート このエントリーをはてなブックマークに追加

この文章は小関悠が個人の立場で書いたもので、所属する組織などの立場や意見を示すものではありません。特に明記のない限り、この作品はフィクションです。

星新一賞入選のロボット子育て小話「キッドイズトイ」はAmazon Kindleにて100円で販売中です

< NCOH (New Conception Of Home) 1
テキスト一覧
NCOH (New Conception Of Home) 3 >