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さよなら、三嶋レーン

「子供の日」を「子供が親に感謝する日」と説明するオトナは多いけど、方や「敬老の日」がある事を考慮すると、一年は子供にとって実に不公平だと思う。スパンを一生にとればプラスマイナスはゼロになる、という考え方だろうか?そういう人がシューマイに乗せられたグリンピースをありがたがるのかもしれない。

 

 昨日の電話の通り、ジョーとマルコが二時ちょうどにやってきて、誘われるがままに三嶋レーンに行った。二人はまだボーリング場なんかでデートをしているのだろうか、と思うと少し頭が痛くなった。久しぶりに見たジョーは以前より随分と髪が伸びていて、逆にマルコは少し短くなっていたので、二人はほとんど同じ髪の長さだった。

 

 久しぶりに現れた三嶋レーンは、今や世界で一番地味な建物に見えた。入り口には小さな看板が立てかけてあって、そこには大きな文字で「ありがとう九周年」と書かれていた。「九年…も経ったっけ?」ジョーは頷いた。「出来た次の日ぐらいに来たよな。九年前…という事は…小学校…四年か。ん、確かにそれぐらいのはず。」「私がこっちに来た時にはもうあった、ってのは確か。」マルコはそう付け足した。ボールを持ったら危なっかしそうな子供が、中にはずいぶんといた。「でも、今月末で潰れるんだよな。ここ。」一緒にボールを探していた時、不意にジョーは言った。「だから今、だいぶ安いんだけど。」結局ジョーと私は13ポンドのボールを、マルコは11ポンドのボールを選んだ。

 

 初めの二つのゲームは、私がアッサリと勝った。マルコは指が痛いと言って途中から9ポンドのボールに変え、ニゲームを終えてしまうとやめてしまった。「どうする?まだやる?」とジョーは聞いてきた。「一勝も出来ないと恥ずかしいでしょ。」私はそう答えた。「確かに。」大真面目な顔でジョーは言った。ジョーは嘘をつく時いつも、やけに真面目な顔をする。

 

 第三ゲームはいい勝負になった。でもほとんど同じスコアで七フレーム目「そろそろ本気を出すか。」とジョーが言ってから突然、彼のスコアは伸びなくなった。こういうのを遠慮、というのだろうか?ジョーはわざと負けようとしてるのではない。「そういう人」では無い。それは良く分かってる。彼はただ、わざと「負けてしまう」のだ。マルコは「二人だといい勝負ねぇ。」と言った。彼女も「何故か指が痛くなってしまう」のだ。「こういう時には必ず」。それは嘘では無い。そんな事は分かってる。何も、変わってはいないのだ。昔から。

 

 三嶋レーンを出た時は、まだ四時だった。「どうするの?どこか喫茶店にでも行く?」マルコは言った。「ごめん、私、ちょっと用事があるから。」私は逃げる様に言った。「そうなの?残念。」マルコは本当に残念そうに言った。いや、彼女は多分、本当に残念なのだ。誰にもそうと知られずに巧く嘘をつけるのは、この中では私だけなのだ。ジョーとマルコは「また帰ってきたら声をかけてね。」と言った。私が帰郷しているのをどこかで聞いて声をかけてきたのは、二人の方なのに。

 

 家に戻ると、不意に涙が出てきた。以前に私のものだった部屋は、今は魂を抜かれた様にがらんとしていた。もちろん、用事なんて無かった。窓とドアを閉めてから、私は一人で泣いた。

 

1999/05/04

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このページにある全ての記述は、特に明記のない限りフィクションです。また著者である小関悠が個人の立場で書いたもので、所属する組織などの立場や意見を示すものではありません。
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