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火事の日

 年が新しくなってから、街のあちこちで火事が続いている。はじめこそ空気が乾燥しているからだと言われていたが、どうも放火事件らしいという話だ。五件目の火事が、木造のアパートを全焼させて、これまで一番大きな被害となり、はじめての重傷者を出したところで、警察は現場にはいつも同じ安いライターが残されていたことを発表する。そして私達は、火事がぴったり六日おきに起きていることに気付く。

 

 マスコミは大騒ぎである。これまでに燃やされた家や納屋、倉庫などを取り上げ、地図にプロットしては次がどこになるかと予想をはじめる。次に燃やされそうな家へとレポーターは急行する。ライターの製造業者がインタビューに答え、営業部長を名乗る中年が、当社にはなにも落ち度がないと汗を拭きながら言う。

 

 明日は火事の日だと、小学生たちは当たり前のように言う。そして実際に火事の日の夜、小学校の体育倉庫が燃やされ、無実の飛び箱たちが犠牲になる。次の火事の日には明け方から駅の標識が燃やされ、危うく古い駅そのものに燃え移りそうになる。その次の火事の日は評判の良い眼科が夜中のうちに全焼する。なぜ私の病院が狙われたのかは分からないが、なんとなく予感がして、火災保険に入っていたのだと、眼科の医師はレポーターに答えて言う。

 

 知り合いの刑事が私のところにやって来たときには、火事はすでに十件を超えていた。最初の火事から二月が過ぎている。犯人は次第に野心的になってきている、なんとしても犯人を捕まえたいと刑事は言う。犯人の心当たりはもちろんないが、と私は答える。火事を止めることはできるかもしれない。

 

 火事の日を翌々日に控えた木曜日、公園の古いシーソーが焼ける。それはこれまでに比べればささやかな火事である。しかし警察はこれまでと同じライターが見つかったと発表、どうやら犯人はこれまでのパターンを崩し、標的も手頃なものに切り替えたようだと説明する。

 

 次の火事の日、郊外の一軒家が全焼し、一人暮らしの中年の男性が死亡する。そこにライターがあったかどうかは知られていないが、それ以来、この街で放火事件は起きていない。

 

2013/04/22

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この文章は小関悠が個人の立場で書いたもので、所属する組織などの立場や意見を示すものではありません。特に明記のない限り、この作品はフィクションです。

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