朝、雨になりそうでならない天気では洗濯機に活動を命じるにも躊躇する。僕は涙を流した事が無い。最初の講義が始まる時間が近づいていた。傘を持つかどうかで一先ず悩んだが、天気予報は降ってもにわか雨程度と伝えていたので持っていかない事にした。傘で手が塞がるのは好みでは無いし、いかにも中途半端な性格を表したかの様な折り畳み傘という選択は、僕の性質に合い過ぎてもっと僕の好みで無かった。そして今度は自転車に乗って行くかどうかで悩んだが、今日は歩いて行く事にした。洗濯をどうするかというの議題については結局タイムアウトとなり、山になった洗濯物はまた明日の議会の時間に回される事になった。三つの選択はそれぞれ矛盾しているかもしれない。雨が降ると思うなら傘を持つべきだろうし、降らないと思うなら今から洗濯機を回して急いで自転車で行けばいい。この不思議は例えば競馬の三点買いと、根本で繋がった思想かもしれない。
どうだろう?僕は真剣に聞いてみたいのだが、涙を流す人達と言うのは、どういう時に泣く、もしくは泣く事が出来る、のだろうか?本や映画、そして知人・友人達を見る限り、涙が出るシチュエーションというのはかなり限られている。悲しい時、嬉しい時、痛い時、感動した時。探していたマンガを見つけたからと言って泣く人間はまずいないが、失恋をすると大抵の人は泣く。コンタクトにゴミが入るとまず間違いなく泣く。僕も中学生の頃からコンタクトが欠かせないが、それでも涙は生まれない。替わりに、三種類の目薬は欠かせない。失恋は13歳と16歳と19歳の時に一度ずつ経験したが、もちろん泣かなかった。掲示板を見ると、講義は休講だった。
外が少しずつ明るくなってきていたので、家に戻るとまず洗濯機を回した。これでもう午前中は何もする事が無い。部屋の隅に出来た本の山を漁っていると、探していた、今はもう探していなかった、本が見つかった。『冷たい時間』時間シリーズの一冊だ。時間シリーズの他の作品は少し前に全部売ってしまった。本当はこの本も売り払う予定だったのだが、何故かその時は見つからないでいて、そのままだったのだ。僕はこの本の処遇を考えたが、結論がなかなか出ないのでとりあえず今後の議会の時間に回す事にし、本は山に戻した。
目覚めた時には外は暗くなっていた。すっかり眠ってしまったらしい。午後からは用事があったのだが、時計は無常な知らせを僕に見せ付けていた。嫌な夢を見たのか、枕は汗でべっとり濡れていた。そういえば今日は僕の誕生日だ。一つ残っていた小さなヨーグルトのカップを開けて、食べた。外は大雨になっていた。十代最後の誕生日は、その様にして終わった。
1999/04/20
この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。
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さよなら、三嶋レーン
「子供の日」を「子供が親に感謝する日」と説明するオトナは多いけど、方や「敬老の日」がある事を考慮すると、一年は子供にとって実に不公平だと思う。スパンを一生にとればプラスマイナスはゼロになる、という考え方だろうか?そういう人がシューマイに乗せられたグリンピースをありがたがるのかもしれない。……
トリガー
道具というのは、人間が使う為に生まれてきたものだ。だが、時々人間の方が、道具を使う為に生まれてきたものなのではないか、と思う事がある。僕が小学生だった頃、オルガンの前を通りかかると何故か吸い寄せられるように「ライディーン」を弾いてしまったものだ。ハサミを見てはつい手近な紙を切ってしまう、という事もある。それに僕は少し粘着質の所があって、例えばコンテを描き始めると紙が真っ黒になるまで続けてしまう。少し変わった言い方をするならば、道具の意志に操られやすい性格、とでも言えるだろうか。目の前の道具が使い主を求めて働きたがっているのを、無視出来ないのだ。僕自身、これはあまり良い習性では無いと思っている。夜、流し場に包丁が転がっていると、不意にその包丁で自分の左手を刻んでいるイメージが脳裏をかすめる事がある。もちろん、実際にやった事は無い。だが、昨日やらなかったからといって今日もやらないとは限らない。まして明日の事は全く分からない。あるいはいつか、僕の左手は右手に納められた包丁で切り刻まれる宿命なのかもしれない。そういえば「マーフィの法則」に端的な表現が一つあったではないか。「トンカチを持つ者の眼には全てが釘に映る」と。それが例え自分の頭だったとしても。……
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僕の友人の話をしよう。名前は竹本博史。彼は僕と同じ会社に勤める、まぁ普通のサラリーマンだったが、実は作家志望で、暇を見つけては何か物語を書いていた。ところが今の今まで、彼の作品は一度も完結した事が無い。何故か?それは、彼がこと、自分の作品の事になると、極端に凝り性になるからだ。……
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変な夢を見た。二人組のストーカーに追いかけ回される夢だ。二人組って、三人でデートでもしたいのか。でも、一人は西川純子みたいで、凄くタイプだった。とりあえずそれは夢の話だ。カーテンを開けると、光がまぶしかった。外はいい天気だ。珍しく、頭もスッキリしている。今日は学校をサボろう。……