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AIとの面接

噂の面接AIが、大きなテーブルの向こうに座っている。筆記試験を通過して呼ばれた一次面接。前日に東京まで出られるかと言われて、慌てて新幹線に飛び乗ってきたのだ。

 

個人面接だと思い込んでいたが甘かった。似たようなスーツを着込んだ候補者が他に三人。ライバルと言うべきなのだろうが、横目で見る限り、みんな面接AIに圧倒されているようで、妙な連帯感を感じる。

 

AIは挨拶もそこそこに矢継早の質問を投げかける。「応募の動機は?」「この一年で一番に頑張ったことは?」「これまでで一番の失敗は?」「一緒に働くことになったら何を成し遂げたい?」「最近のニュースで気になっていることは?」「東京にいるインコの数は?」

 

幸い、変化球は少ない。面接対策が効いたのか、準備通りの回答が口をつく。ただしAIはこちらの返答が終わるなり、顔色も変えずに新しい質問を投げてくる。候補者たちはテーブルに並んだ水を飲む暇もない。

 

「よく分からなかったので言い換えてくれる?」「さっきはこう言ってたよね?」「自分が反対の立場だったらどうする?」AIは回答を記録して、解析し、論理的に攻めてくる。次第に他の候補者は返答に苦しむようになる。こちらは自然体に努めながら、出来る限り自社のアピールを繰り広げる。

 

本当かどうかは知らないが、今年ベストセラーになった面接対策本によれば、AIに勝つには嘘をつかないこと、それからアピールを惜しまないこと。AIは論理を読むので嘘にすぐ気付く。しかし空気も読まないので、アピールはちゃんと受け止めてくれる。

 

「本日はありがとうございました」と面接AIは最後まで静かな口調で面接を切り上げる。時計を見ると、長く感じたが、ほんの三十分ほどだった。終わって部屋を出るともう口はカラカラで、どっと疲労が押し寄せる。

 

「御社、すごいアピールでしたね」隣に座っていた候補者が言う。「まあ、売り手市場の今日、優秀な学生にはあれくらい積極的に言わないと伝わらないんでしょうが……」

 

「そうですよ」と白髪混じりの別の候補者が言う。「うちみたいな地方企業はまず学生に呼んでももらえませんからね。今日はようやく声がかかったと思ったのに、相手がこのAIですから」

 

「でもこの学生さん、Twitterみるともう中国の企業から内定が出てるらしいですよ」一番端にいた候補者は言う。「さっき自慢気に投稿してました。我々はAIのデータ集めに使われたのかもしれません」

 

「交通費くらい出ませんかね」私はそうとだけ言うと足早に去り、東京駅で土産を買って帰った。

 

2018/03/07

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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