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無能警報機

朝、会社に行ったら、フォンフォンと警報音がオフィス中に鳴り響いていた。見ると社長が机の上でなにやら機械をいじっており、そこから警報音が聞こえてくる。

 

「なんですかこれは」私が聞くと、社長は困ったような顔をして「これは無能警報機だよ」と答えた。

 

「昨日、知り合いのコンサルタントに買わされたんだ。なんでもオフィスを監視して、無能がいると警報音を発信してくれるというんだが……」社長は言いながらフォンフォンと鳴り続けている機械をいじっている。「さっき電源をつけてから、音が止まらなくて……」

 

私は機械を覗いてみたが、いろいろなボタンやレバーやダイヤルが並んであって、どれが電源スイッチなのかもわからない。

 

「これは買わされた社長が無能というオチでしょう」と私が言うと、社長は不満そうにこちらを見る。「もしくは、ただずっと鳴り続けるという仕組みなのかもしれませんね。人はみんな無能なんだ、みたいな」私はフォローするように言った。

 

「坂口くん」社長が近くの社員を呼び止める。坂口さんは若いが営業部門のナンバー2で、誰よりも優秀と評判である。「営業に出るとき、この機械を持ってちょっと持って行ってくれんかな」坂口さんは怪訝な顔をしたが、「わかりました」と答えた。坂口さんは優しいのだ。

 

昼頃、坂口さんが戻ってきた。機械はフォンフォンと鳴り続けている。「その機械、どうだった?」と社長が聞く。「オフィスを出たところで鳴り止みましたよ。戻ってきたらまた鳴り始めましたけど」社長と私は頷いた。「君ならきっとそうだろう」社長は言った。

 

「つまり、このオフィスの誰かが無能ということだ」社長はあたりを見回しながら言った。「しかし、調べるからには、まず僕が率先して試してみよう」そういって社長はフォンフォンと鳴る機械を片手に、打ち合わせへと消えた。

 

一時間後、社長は笑顔で戻ってきた。「オフィスを出たところで鳴り止んだよ。私は潔白だ!」そしてフォンフォンと鳴り続ける機械を私に手渡す。「こうなると次は君の番だな」

 

私は言った。「社長、このオフィスには80人近くの社員がいるので、一人づつを調べていたら大変な時間がかかります。こういうときは、まず社員を40人ずつ半分に分けましょう。そうすれば半分に分けたグループのどちらに無能な社員がいるかわかります。それから、次はそのグループをまた20人ずつ半分に分けて、10人、5人と絞りこんで行くのです」

 

社長は言った。「なるほど、君は有能だな」

 

そういうわけで、私達は社員を分けて、半分の社員を働かせ、もう半分に休憩時間を与えた。機械はそのあいだ、フォンフォンと鳴り続けていた。

 

「無能がいたのはこちらのグループか」社長は言う。「念のため、もう半分と入れ替えてみましょう」そうしてグループを入れ替えたが、機械はやはりフォンフォンと鳴り続けた。

 

「どういうことだろう」と社長は言う。「たぶん、無能は複数いるんでしょうね」私は言った。

 

私達はグループを20人に分け、10人に分けたが、機械はフォンフォンと鳴り続けた。「いったい何人いるんだろうか」社長は不安がったが、5人のグループに分けたところで、機械はとつぜん鳴りやんだ。そして、どの5人のグループでも、機械は音を出さなかった。

 

調査が終わり、社員がみんなオフィスに戻ってきた。機械はまたフォンフォンと鳴っている。

 

「どうしたことか」社長は困っていた。「これはつまり」私は言う。「個人個人は有能でも、大勢で集まると無能になるということではないでしょうか」

 

「なるほど」と社長。「どうすればいいだろう」

 

「そうですね」私は考える。「とりあえず、明日みんなでまた考えましょうか……」機械はフォンフォンと鳴り続けていた。

 

2019/05/23

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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