中国人の元同僚が何人か働いているので、TikTokについては少し前から注目していたのだが(少し前から注目していたアピール)、実際これはなかなか面白いアプリである。
なにがすごいって、起動するといきなりコンテンツが流れてくる。アカウント登録のフローがない。使い方の説明もない。なにかをフォローする必要もない。
20年ほど巻き戻って考えてみる。インターネット(厳密にはWWW)というのは、そもそも超能動的な動きが求められるメディアであった。スクロールしないと先に進まないし、クリックしないと次の画面に切り替わらない。
そんな中でネットユーザーはお気に入りのウェブサイトを見つけ、そこをブックマークするようになり、ネットサーフィンに没頭した人達は、はてなアンテナのような更新チェッカーを利用したり、RSSリーダーでフィードを購読するようになった。
それは牧歌的な時代であったが、やがてインターネットでも人々がビジネスとマネタイズを真剣に考えるようになった。更新チェッカーやRSSリーダーがプラットフォームビジネスとして成功しなかった理由は幾つかあるだろうが、そのうちの一つはユーザーにメンテナンスのコストを求めることにあっただろう。
たとえば、RSSフィードが移転したら、ユーザーはフィードの設定をしなおす必要がある。そもそも登録しているウェブサイトの更新が滞ってきたら、ほかのウェブサイトを追加してくれないと、プラットフォームの滞在時間が少なくなってしまう。
「ぜひうちのプラットフォームを使ってください! どんどんウェブサイトを登録して、コンテンツを楽しんで、足りなくなったら追加してください!」というのが、牧歌的なプラットフォームの牧歌的なアピールであった。
そこに、いわゆる「ニュースフィード」が出てきた。フィードはリンクだけではなくコンテンツまで内包するようになり、また画像、動画、広告、様々なコンテンツが一つのフィード内に混在するようになった。
大きいのは、フィードが時系列でなくなったことだ。これにより、ユーザーがどう見たいか(時系列)ではなく、プラットフォーム側がなにを見せたいか(エンゲージメントを生むもの)が重視されるようになった。
また、これにより時系列に関係しないコンテンツ、たとえば「おすすめのフォロー」とか「広告」を、より簡単に挿入できるようになった。フィードを時系列にしないというのは、Facebookにはじまり、TwitterやInstagramでも当然のテクニックになりつつある。
「ぜひうちのプラットフォームを使ってください! どんどんフォローしてくれれば、コンテンツはどんどん出していきますから。足りなくなったら追加してくださいね」というわけ。
問題は、それでもまだユーザーにメンテナンスのコストを強いることだ。Facebookは、友達のいない状態では見るものがない。Twitterはフォローしているアカウントの投稿が減れば、タイムラインの流れも遅くなる。だからプラットフォームは「友達ではありませんか」「電話帳をアップロードしましょう」「フォローしませんか」としつこく促す。
だったら、もうフォローなんかに頼らなければいいじゃん、というのが20年経っていま、TikTokが辿り着いた境地ではないだろうか。長年ソーシャルメディアやプラットフォームの変遷を見てきた者としては、なるほど! と思ってしまう。
「ぜひうちのプラットフォームを使ってください! コンテンツはどんどん出していきますから」と。実に簡単だ。
最新型ソーシャルメディアとして語られるTikTokだが、ある意味では、ニュースアプリに近い。SmartNewsのトップページは、かつては誰が見ても同じだったが、最近はパーソナライズされるようになった。その延長である。そもそもTikTokを提供するBytedanceはニュースアプリToutiao(今日头条)、TopBuzzで成功した企業だ。
もちろん他のプラットフォームも課題は理解しており、InstagramのDiscovery、FacebookのWatch、TwitterのMomentも「なにもないときに見るメディア」として提供されている。LINEがニュースを内包するのも同じ理由であろう。しかし、それを主役に持ってきたのはTikTokの発明ではないか。
もう一つ、TikTokを見ていて思い出すのはTinderのことである。Tinderは出会い系という、なんともコミュニケーションコストのかかる仕組みを、左右のスワイプにより極端に簡略化した。特になにか選んだわけでもないのに、どんどん溢れてくるコンテンツ(というのは人間のことだが)を、どんどん消費していく感じ。
もちろん、昔ながらのフォローモデル、あるいは時系列モデルが良かったという意見はあるだろう。情報はただ受動的に与えられるものではなく、能動的に探索するものであるべきという気持ちもある。
しかしアプリ市場も過当競争となったいま、今後はこれくらいのおもてなしがないと使われないのだろうな、と思うのも確かだ。結果、スマートフォンはどんどん「スワイプで切り替わるテレビ」に近づいていくのである。
2018/11/05 - 2018/11/06
この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。
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