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漫画村をめぐる広告主の責任

漫画村など一連の海賊版サイトの問題で、広告業界が批判を受けている。問題がここまで拡大したのは、サイトの資金源として広告があったからで、関わった広告主、広告代理店、広告プラットフォームなどは批判を免れないだろう、というものだ。

 

きわめてまっとうな批判である。

 

現代のデジタル広告プラットフォームはとても複雑化しているので、誰もが知らないうちに問題に関わっている可能性がある。たとえば、広告主は知らないあいだに自社の広告が漫画村に出ていたかもしれない。広告主は代理店に任せていたと言うだろう。代理店は広告配信プラットフォームを使っただけと言うだろう。そして広告配信プラットフォームは広告出稿先の管理は別の広告業者に任せていると言う。

 

広告主にとって、自社の広告が不適切な場所に掲載される問題は以前から「ブランドセーフティ」と呼ばれている。米国では、大手ブランドの広告が、ISISの動画の横や、大統領選中の右翼サイトに掲載され、以前から論点となっていた。

 

ほとんどの人は広告業界の複雑な構造など知らない。広告が不適切な場所に出ていたら、それは広告主のせいと捉えるだろう。漫画村に大手企業の広告が出ていたら、その企業はなにをやっているのかと思うはずである。そして広告主がどう責任転嫁しようと、それは実際に広告主の問題である。

 

漫画村を巡る報道では、NHKが指摘する「裏広告」も問題視されている。該当の記事()はすぐに消えてしまうだろうから、簡単にまとめれば、漫画村は読者には見えない形で広告を配信し、広告主から資金を得ていたというのだ。

 

「裏広告」という用語がどこから出てきたのかは分からないが、業界ではこれは「アドフラウド」(広告詐欺)と呼ぶ。広告詐欺にはさまざまな種類があり、たとえばクリックあたりいくらでお金の入る広告を、自分たちで何回もクリックしたら、それは広告詐欺である。表示するたびに僅かなお金が入る広告を、プログラムを書くことで、何百万回と呼び出すこともできる。それも広告詐欺である。

 

もちろん最新のアドフラウドはこれほど単純ではないが、お金を含めた広告の取り引きがデジタル上で完結する以上、そこでなんらか詐欺を働こうとする者が現れるのも、ある意味では当然かもしれない。

 

注意しなければいけないのは、ブランドセーフティがあくまで広告主にとって「自分たちの広告が変な場所に掲載されていないか」という問題であったのと同様、アドフラウドが指すのも、あくまで広告主が「詐欺にあって余計なお金を払わされていないか」という問題である。

 

(だから広告の視聴者が「レイバン3900円!」みたいな広告を信じてサングラスを注文したのに届かない……みたいな話はアドフラウドではない。広告主は騙されていない。それは、敢えて言えばただの詐欺、あるいは詐欺広告である)

 

つまり、ブランドセーフティもアドフラウドも、あくまで当事者なのは広告主である。そして、代理店やプラットフォームの自浄作用が見込めないのであれば、こうした問題を解決しなければいけないのは広告主自身である。

 

これまでの漫画村をめぐる議論では、広告代理店や広告プラットフォームが批判を集めることが多かった。広告主は悪い代理店やプラットフォームに騙されてしまっただけ、とでも言うように。確かに、同情すべきところはあったかもしれない。

 

しかし、漫画村の読者に「マンガはちゃんと買って読みなさい」と言っても効果が見込めないように、漫画村を通じて直接収益を上げる代理店やプラットフォームに「悪質な広告媒体との取引はやめなさい」と言っても、はっきり言って意味はないのではないか。悲しい話ではあるが。

 

だから究極的には、これはやはり広告主が、そして広告主だけが、解決できる問題であろう。これだけ海賊版サイトが話題になっては、自分たちの広告がそうしたサイトの資金源になっているとは考えたこともなかった……とはもう言い逃れできない。

 

たとえば広告主は、クリック単価やビュー単価といった数字だけに注目する広告の運用を改める必要がある。取り引きのある広告プラットフォームに対しては、ブランドセーフティーやアドフランドにどう取り組んでいるかを検証していく必要がある。

 

さらに言えば、広告主がデジタル広告の運用を代理店やプラットフォームに丸投げするという手法そのものがリスクとなり、絶え間なく変化するデジタル広告業界の知見をどう社内に蓄積していくかが課題になるだろう。予言ではなく、すでに米国では起きていることばかりである。

 

漫画村が広告業界においてもこれだけ大きな問題となった以上、せめて、これからのデジタル広告のありかたを見直すきっかけになって欲しい。そして、いま直接アクションが出来るのは、お金を握っている広告主なのである。

 

2018/04/19

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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