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問題は広告が炎上することよりも、炎上の覚悟がないこと

年始から広告・プロモーションの炎上が続いている。具体的な話にはあまり踏み込みたくないが、例えばそごう、ロフト、グリコ、トヨタ、女子ハンドボール選手権、小学館などである。

 

驚くべきことに、これらの炎上はすべて女性を題材にしたもので、特に働く女性に関するものが多い。それだけ可燃性の高い題材なのだろうし、「これで良い」と考えるプロモーション側と、「これは許されない」と考える視聴者のギャップがある題材だとも言える。

 

それでなくても、女性と働き方(あるいは子供の育て方)を題材にした広告の炎上は以前から続いている。この数年ではルミネ、資生堂、牛乳石鹸、ユニ・チャームなどの例もあった。こうした題材へ不用意に踏み込んだら炎上することは、そろそろわかっても良いのでは? ずっとネットを見ていれば、そう思ってもおかしくはない。

 

一方で企業側にとって見れば、何十年と広告やプロモーションをやってきて、こうした炎上に巻き込まれたのは初めてという担当も多いだろう。おまけに、似たようなことを言っている広告も他にあったりするのに、タイミングの違いでたまたま炎上しなかったりする。炎上したものはどれもそれなりの理由がありそうだが、炎上しなかったものの理由は分からない。そういうものかもしれない。

 

いずれにせよ、今のネットを横に見ているか、これまでの広告の歴史を縦に見ているかで、炎上の予感を読みとれるかの断絶がありそうだ。

 

広告と炎上の短い歴史

 

こう言ってはなんだが、広告というのはずっと批判を受けづらい存在であった。ネット以前、なにかを批判するのはマスメディアの役割で、マスメディアはわざわざ自分たちの収益源であるマス広告を批判しないからだ。

 

たとえば、私はむかし「広告批評」という雑誌を愛読していた。なぜ「広告批評」が面白い雑誌だったかと言えば、広告業界には良い広告を褒めるような賞は色々あっても、悪い広告も含めて批評するようなものは、今思えば他にほとんどなかったからだろう。

 

おかげで広告というのは、時にすごいお金と労力をかけて、自由で、クリエイティブなものを、時に騒動を起こしながらも、作ることができた。また広告というのは本来、商材をアピールすれば済むだけのものなのだが、それだけではつまらない、もったいないと考える人たちが、旬の題材を巻き込んでメッセージを作ってきた。

 

実際のところ、良い広告というのは、その時代をどれだけ反映しているかで決まるといっても過言ではない。だからこそ、広告業界にはある種の特別な魅力があった。

 

そんな長い歴史を鑑みると、広告はまだ「炎上慣れしていない」と言えるかもしれない。そして昨今の広告が「働く女性」のような、わざわざ可燃性の高い題材に飛び込んで炎上していく理由もなんとなく分かる。時代を反映するためには旬の題材と絡めなきゃいけないことは分かっているが、そこからどんな反応が生まれるか予期するのはすごく難しくなってきているのだ。

 

だから賢い人であれば、そうした可燃性の高い題材は避けましょうと言うのかもしれない。あるいは、誰にも批判されない広告を考えるべきなのかもしれない。

 

炎上する覚悟がそもそもあるか

 

一方で私は、批判や炎上を覚悟の上で広告を作っても良いじゃないかと思う。働く女性というのは色々と議論のあるトピックだろうし、何が正解というわけでもない。企業として、なにかメッセージを伝えたいなら、堂々とそうすべきであろう。

 

しかし現実には、残念ながら炎上した多くの広告が、そもそも「なにが言いたいのか分からない」「なにが目的なのか分からない」と言われている。なんとなく旬の題材に踏み込んできて、なにを解決するわけでもなく終わるような広告も多い。ネット以前の広告であれば、そんなふうに問題を提起して見せるだけで良かったのかもしれないが、今ではそんな甘い立場は許されない。「なにが言いたいの?」と常に問われるのが現在の広告なのだ。

 

だから改めて最近の炎上を見ると、多くが「目的が不明瞭なまま旬の話題に踏み込む広告」と「旬の話題に踏み込んできた目的が分からず困惑する視聴者」という認識のズレから生まれているように見える。

 

そんな中で一つの参考になるのは、炎上したユニ・チャームの広告かもしれない。同社のムーニーの広告は、育児に男性が参加していないと批判を受けたが、他の炎上例とは違って、広告を取り下げることはしなかった。炎上しようと、自分たちが伝えたかったのはこれだ、という覚悟があったのだろう。

 

そう考えれば、一番大きな問題は、広告が炎上したときにすぐに取り下げられてしまうことにある。本当に伝えたいことがあるなら、批判されても、誤解されても、広告は残して、これが伝えたいメッセージだと主張すべきなのだろう。

 

だが実際には、多くの広告は炎上すると「不愉快に感じられる方がいたら申し訳ない」みたいな定型文を残して消えてしまう。だから広告の炎上は、企業がいつ取り下げるかを見守るゲームのようになってきている。そして「取り下げるくらいなら始めからやらなければ良かったのに」と言われる。

 

広告の炎上を防ぐ方法は色々あるだろうし、そのノウハウも今後は蓄積されていくだろう。しかし結局のところ一番大事なことは「仮にこの広告が炎上しても、そのメッセージを押し通す覚悟があるか」事前に考えることではないか。そして、それにイエスと答えられないなら、たとえ結果的に支持されても、批判されても、良い広告とは呼べないのではないだろうか。

 

2019/03/05

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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