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弊社・オブ・ザ・デッド

 金曜夕方、打ち合わせから戻ると、オフィスはゾンビだらけになっていた。課長は右手がもげ、小さくうなり声をあげながらコピー機のまわりをうろうろしている。部長は左足が膝からなくなり、会議室を這いながら椅子にぶつかっている。

 ざっと見る限り、ゾンビになったのは1/4くらいだろうか。おかげでいつも静かなオフィスが今日は騒がしい。

 

「お帰りなさい、例の打ち合わせどうでした?」同期の内田が声をかけてくる。

「そんなことより、これどうなってるの」私は答える。

「大村さん分かります? 経理の。先週からずっと体調崩して、しょっちゅう咳こみながら仕事してたんですけど、あれが実はゾンビの兆候だったみたいで」

「はあ」

「昼休みくらいに急にゾンビになって、まわりの経理や総務の人達を襲って、オフィスでぼんやり仕事してた人も次々に犠牲になっちゃったみたいです。私はお昼食べに行ってたんで大丈夫だったんですけど」

 

 話してるあいだにも内田の後ろからゾンビが襲いかかってくるが、彼女はそれをさっとよける。あれは営業の桜川か。桜川は人間を襲うのを諦めると、のろのろと席に戻り、得意先へゆっくり電話をかけはじめた。営業成績、上がってなかったもんな。ゾンビになるのも仕方ないと、妙に納得する。

 

「それで、仕事なんかしてる場合なの、これは」私は言う。

「足が遅いから捕まらないだろう、さっさと仕事しろ、って部長が言ったんです。まあその部長が会議中に捕まっちゃったんですけど」

「経理や総務がやられたっていうのは、大丈夫なの、会社として……」

「古柴さんが無事なんで大丈夫でしょ」

「古柴さんいるなら大丈夫か……」

 

 社内ミーティングに呼ばれて出ると、参加者6人のうち、2人はもうゾンビだった。いつもの癖でプレゼンの準備を新人に任せようとしたが、その新人がゾンビである。彼にはHDMIケーブルをノートパソコンに挿すことができず、USBポートに挿そうと苦闘している。

 経営企画の武村が来期の営業戦略を一通り説明する。議論はあまり捗らず、私はメールチェックばかりしている。ゾンビたちも退屈そうだ。

「営業目標、下げられないですか?」と生き残った営業の岩下が言う。「このままだと仕事が捌ききれません」

「いや、競合も厳しいだろうから、シェアはむしろ上がるかもしれない。頑張って欲しい」武村は言った。そう言って会議室を出たところで、桜川の待ち伏せにあい、脳味噌をむしられる。

 

「来年はたくさん新卒を取らないとな」と人事の岩上が帰り際に呟く。

 

 オフィスではまた何人かが咳こんでいる。社員には風邪薬が配られる。青色のパッケージには金色で「死んでも休めないあなたへ」と書かれている。

「死んだら休みたいですね」風邪薬を受け取りながら、内田は言う。

「死んだら休みたいね」私は答える。そろそろ帰ろうと思いつつ、またメールをチェックしてしまう。日は落ちたが、ゾンビたちは休むことなくオフィスをはいずり回っていた。

 

2018/05/23 - 2018/06/29

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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