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邂逅

 扇風機にでもあたりながら軽く目をつぶると。

 

 幼い頃を思い出す。さすがに小学生の頃なんてほとんど忘れてしまっているけれども、初めて好きになった人の名前ぐらいは覚えている。顔だってずいぶんとはっきり思い出せる。とにかく名前の通り、瞳が奇麗で。うん?さすがにここまで美人だったかどうか、自信は無いけれども。

 

 中学校とか高校の記憶はなんだかフワフワしていて、昨日見た夢と大差ない。グルグルと頭の中を、それでも精一杯忙しく駆け巡る記憶。不思議な事に沢山いたはずの嫌いなヤツの顔が、全く思い出せない。すぐに思い浮かぶのは…、そう、やっぱり好きだったコの名前とか。彼女の嫌いな食べ物とか。O型とA型は相性が悪いって、友人に思い切り言われた時の事とか。

 

 いつのどこを向いたって、人の顔ばかり思い出す。それは幸せな人生だった証拠になるんだろうか?冷たい記憶なんてどこにも無い。雨だって覚えているのは、どこか温かいものばかり。誰かを思い出す曲がある様に、雨だってそこにある。

 

 もちろん、イヤな事が何も無かった訳じゃない。全て忘れてしまった訳でもない。そんな事は絶対にない。それでも、それらの記憶が冷たい訳じゃない。それがちゃんと生まれ、創り出された記憶である限り。どこまで行っても体温以外の温度がない。まるでまだ胎内で、ゆるやかに夢を見続けているみたいに。

 

 夢みたい?そう、全部夢だったのかも。それならそれで、まぶたを開けばまた創り出せる。

 

1998/07/02

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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