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コミュニケーションの現場 1

退屈な役者二人のためのとても短い脚本

 暗闇。

女の声「恵まれてそうに見えても、本当に恵まれているかどうかは他人には分からない」

 明転。

 居酒屋か、喫茶店のようなところ。

 小さなテーブル。男女が向かいに座っている。

 派手な衣裳の女。早口。

 地味な衣裳の男。分厚いサングラスをしている。どこを見ているのかよく分からない。

女「そう思わない?」

男「うーん」

女「『エスパー魔美』を読んでいて思ったんだけどさ、関係ないけど高畑さんってマンガのヒーローにしては冴えない顔だよね」

男「ふーん」

女「じゃなくてエスパーの話で、例えば超能力が使えるとすごい便利、って思いがちだけど、きっと使えたらそれはそれで面倒なこともあると思うのよね。明らかな問題点としては、まずばんばん使うわけにいかないじゃない。屋根の上をテレポーテーションで飛び回ってたら、きっとすぐ自衛隊が出てきて捕まるわよ、物騒な世の中だし。私だって通報する。きっとそうする」

男「うん」

女「だいたいテレポーテーションが出来たとして行きたい所があるわけでもないのよ。心の翼が飛び立たない?まあ地球の裏側まで行けたら別かもしれないけど、でもビザがないとやっぱり捕まるという。もしくはテレパシーが出来てもさ、人の話なんてこれ以上聞きたいとも思わないし」

男「あー」

女「腹減ったなー、とか。仕事めんどいー、とか。そんなのばっかりよ実際きっと。あいつ巨乳だなー、とか。そういう人間の…」

男「あっ!」(驚く)

女「え?」

男「あ、ああ」(落ち着く)

女「人間の心の声って聞きたくないよね。はっきり言って、自分の心でさえ聞きたくないと思わない?」

男「あー、うーん」

女「どう思う?聞いてみたい?」

男「え?」

女「聞きたい?」

男「あ、ごめん、ちょっと待って。…なにが?」

女「心の話」

男「心?」

女「聞いてた?」

男「あー、うん、最後はあんまりよく分からなかったけど」

女「どこまで聞いてた?」

男「あー、ごめん、ちょっと待ってよ。…どこだったかな?」

女「覚えてない?」

男「なにが?」

女「話」

男「心の話でしょ」

女「だからさ」

男「あ!来た!」

女「何が?」

男「よしー」

女「聞いてる?」

男「あ、駄目だ!そっちじゃない、あ!あ!うわ!あー。あー、あーあー」

 男、椅子に深く倒れ込む。間。

 男、不意にサングラスを外し、元通り座る。

男「心の話だっけ?うーん、心ってまあ人間の一部だよね」

女「今、何してたの?」

 間。

男「テトリスってロシア人が作ったんだよ。昔の話だからソ連かもしれない」

女「で?」

男「ロシア人はみんな寒い冬をテトリスをしてやり過ごすんだよ」

女「そうなんだ」

男「いや、知らないけど、たぶんそうさ。とにかくそれだけテトリスは中毒性が高い」

女「だから?」

男「僕はテトリスに首ったけ」

女「だから?」

男「家でもテトリス」

女「だから?」

男「外でもテトリス」

女「うん」

 間。

女「外?」

 女、サングラスに気付いて手に取り、装着。

女「わ!」

 サングラスを外す。

女「テトリスになってる!」

男「ドンキホーテで4000円だった」

女「前が見えない!」

男「テトリスをやるのに前を見る必要はないよ」

女「え?ここまでは?」

男「道順ならまかせて。だいたい覚えてるから」

女「そのうち誰かに刺されるよ」

男「今のところ大丈夫」

女「財布盗まれたりとかさ」

男「今のところ…え?あれ?うそ?」

 男、ポケットなどあちこちを探る。

男「…あ」

女「テトリスってすごいね」

男「世の中どうなってんだ…」

女「あなたに言いたい」

男「あー、もう何もやる気がしねえ」

女「どうするの?」

 男、サングラスをかける。

女「何もやる気がないんじゃないの?」

男「男は逃避して大きくなる」

女「ご立派」

 間。男、時々身悶える。

女「それでよ、超能力が使えたらいいなって思うタイプ?」

男「女って絶対自分の話を途中でやめないよね」

女「そう?」

男「そうだよ」

女「で、超能力が使えたらいいなと思う?」

男「ほら」

女「どうなのよ」

男「女って人の話を聞かないで自分の話をするよね」

女「そんなことない。テトリスはロシア生まれ」

男「ふーむ」

女「で、超能力」

男「いいなと思うよ」

女「テレパシーでも?」

男「いいね。望みのない告白で失恋することがなくなる」

女「超能力者がいたら尊敬する?」

男「するだろうな」

女「どんな超能力でも?」

男「鼻からスパゲティを出す能力とかだと嫌だな。尊敬出来ない。ザ・ワールドとかなら最高。ディオ最高」

女「なにそれ」

男「時間を止める能力」

女「あ!」

男「何だよ」

女「それそれ!」

男「それって?」

女「私、時間を止められるのよ」

男「マジかよ」

女「マジだよ」

 男、サングラスを外す。

男「やってみてよ」

女「いいの?」

男「おう…いや、ちょっと待って!」

女「せーのーで」

 男女、動きが止まる。暗転。

 

2005/12/26 - 2005/12/29

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この文章は小関悠が個人の立場で書いたもので、所属する組織などの立場や意見を示すものではありません。特に明記のない限り、この作品はフィクションです。

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