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2021年だから人類はHTMLを手打ちしろ

新しい年だ。人並に新しいことを始めようなどと考える人もいるだろう。しかし、なにを始めればいいのか? 僭越ながら一つ提案をさせてもらえるなら、私はこう言いたい。HTMLを手打ちしろ。ハイパーテキストマークアップランゲージを学べ。なぜなら、個人がコツコツとタグを手打ちしたウェブページには暖かみがあるからだ。

 

私は中学一年生のとき、はじめてパーソナルコンピュータを買ってもらった。中学受験がうまくいったら買ってもらえるという約束で、受験には失敗したのだが、買ってもらったのだ。中学時代、ほとんどずっとパソコンと向かいあっていたが、CONFIG.SYSとAUTOEXEC.BATを書き換えてメモリ残量の上下に一喜一憂していた記憶しかない。あとA列車で行こう4や、ルナティックドーンのようなアートディンクのPCゲーム。Windows 3.1。

 

高校生になった。Macを手に入れて、プログラミングの一つでも学ぼうと思った。ゲームで遊ぶだけではなく、ゲーム開発をやるのだと。分かりやすそうな本を買い、コンパイラを買って(!)、C言語の勉強をした。ポインターは騙し騙し理解したが、メモリ管理のことはまったく分からなかったので諦めた。

 

そのころMacPowerという雑誌を購読しはじめ、どうやら巷ではインターネットというのが流行りはじめているのだと知った。パソコン通信にはずっと興味があったのだが、電話代がかかるので、親の承諾が下りなかった。しかし、今は定額で通信できるテレホーダイというものがあるそうじゃないか。

 

インターネットではウェブページというのが作れるそうである。HTMLという言語を学べば良いという。私は雑誌の付録CD-ROMに入っていたMosaicをインストールし、雑誌に書いてあるままにHTMLを手打ちした。ウェブページができた。この感動が伝わるだろうか? 文字を大きくしたり小さくしたりできる。色もつけられる。画像も貼り付けられる。最高だ。HELLO WORLDのために四苦八苦していた、これまでのプログラミング言語はなんだったのか。

 

インターネット接続の許可が下り、プロパイダと契約をして、自分のウェブサイトを作った。大学生になって自分のクレジットカードができると、ドメインをとった。それから二十年あまり、一度だけドメインの引っ越しをして、今も自分のウェブサイトを運営している。

 

自分の書いたショートショートがちょっと話題になると、ツイッターでこんな風に言われることがある。「この時代にこんなウェブページがあるとは」。広告もない、アクセス解析もしていない。現代のロストテクノロジーかのような扱いである。何の先端技術も利用していないが、だからこそブラウザでは一瞬で読み込める。ちょっとしたviewport設定のおかげで、スマートフォンでもそのまま読める。どのOSでもどのブラウザでもだいたい読めるだろう。生まれながらにレスポンシブルだ。

 

でもこれはロストテクノロジーではない。あなたにも作れる。なんの知識もなかった高校生時代の私が作れたように、簡単に。

 

二十年以上のあいだ、ネットサービスの栄枯盛衰を見てきた。Geocitiesのような無料ページは軒並閉鎖された。ブログブームは去り、多くのサービスプロパイダが消えた。利用規約が変わったり、運営企業が変わったり、有料になったりするサービスを見てきた。コンテンツの引っ越しを繰り返す人達は少数で、多くの貴重なウェブサイトはただ消えていった。エクスポート機能もないような閉鎖的プラットフォームにせっせと投稿するような間違いを、人はなぜ何度も繰り返すのか?

 

デジタルコンテンツは永遠というのは甘い幻想だった。今やユーザが望んで24時間で消えるコンテンツを生成する時代ではあるが。もし永遠を望むなら、少なくとも自分が生きているあいだの永遠を望むなら、なぜ自分でウェブサイトを作らないのか。

 

CGI、jQuery、node.js、Vue、知らねえ。HTMLを手打ちしろ。ライブラリのバージョンアップに一喜一憂する必要もない。静的ウェブを作れ。セキュリティの心配はない。手打ちが面倒になったら、私のように、PerlのHTML::Templateを使え。フォントの色も変えられないnoteで妥協するな。markdownで省エネを考えるな。HTMLは自由だ。PVなんか知らねえ。みんな自分の城を建てろ。好きに画像を貼り付けろ。自由にリンクを貼れ。ウェブページはもっと自由だったじゃないか。あなたが自分でタグ打ちをする限り、インターネットはあなたのものなのだ。

 

私は今年こそUnityの勉強をします。

 

2020/12/10 - 2021/01/01

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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