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Factorioという、仕事以上の仕事をしたい人のための仕事について

 世の中にはたくさんの面白いゲームがある。特にPCゲームの世界では、毎日のように話題の新作ゲームが発売され、しょっちゅう無料で配布され、ライブラリに積み上げられていく。2020年はPCゲーマーにはゲーム天国、あるいはゲーム地獄である。

 

 しかし大人とは悲しいもので、ゲームをずっとプレイしていると、ふと、自分はゲームで遊んでいるのか、ゲームに遊ばれているのか、分からなくなることがある。ときどきドロップするレア装備品、こちらの習熟度にあわせて難易度を調整してくる敵、無限の選択肢とマルチエンディング、痒いところに手が届く課金アイテム。そしてネット上には溢れる攻略サイトとプレイ動画が待ち構えている。

 

 今日のゲームにはそうしたおもてなしの姿勢が欠かせないし、それはいかに中毒性のあるデザインにプレイヤーを没入させるかということでもある。裏を返せば、最近のゲームの中で、自分の頭で考え、自分の手で操作してクリアしたと胸を張って言えるような作品がどれだけあるだろうか。そもそも一本のゲームをクリアする根気が私達にまだ残されているとして。

 

 世の中にはたくさんの面白いゲームがあるけれど、近年、Factorioほど楽しめたゲームはない。

 

 

 Factorioは未開の惑星に墜落した主人公が、資源を収集して、ロケットを発射するゲームである。それ以上の物語はない。かわりにあるのは、石を切り出してかまど(炉)を作り、木を切って燃料にして、掘り出した鉄鉱石から鉄を精製し……というロケットに至るまでの長い長いステップである。やってることはマインクラフトなのだが、何しろ最後はロケットなので、ぜんぶ手動では間に合わない。だからタイトルのとおり、工業化=自動化がFactorioのテーマである。

 

 手で掘り起こしていた鉄鉱石は、すぐ機械に任せられるようになる。ベルトコンベアに載せると、その先でロボットアームが炉に入れる。こうして自動で製鉄ができるようになったが、必要な量がどんどん増えるので、機械の数も増やさなければいけない。機械を動かす燃料が足りない。ベルトコンベアが詰まる。とりあえずベルトコンベアを複線にして対処するか、高速ベルトコンベアに置き換えることもできる。そのうちコンベアは鉄道になる。信号機の設定を間違えたら正面衝突だ。

 

 やってることは急激に成長するベンチャー経営みたいなもので、何をやるにも「これは十分にスケールするだろうか?」と経営者みたいに悩むことになる。ベンチャー企業と異なるのは、自分以外の人間がいないこと。資源はマップにあるだけ。ランダムなイベントはない。マップに散在する「敵」は近付きすぎるとこちらを攻撃してくるけど、それさえ設定でオフにすることができる。

 

 私はサラリーマンを長年やっているけれど、報告書と広告以外を売ったことがない。特に管理職になってからは、会議をして、スライドを作り、メールを書くのが主な仕事である。自分は本当に仕事が出来るのか? というか、自分は本当に仕事をしているのか? 半年以上も在宅勤務を続けていると、そんなふうに仕事ってなんだろうとつい考えてしまう。

 

 Factorioは仕事中毒の人間が夢見る仕事のようなゲームである。あるいは、ゲーム中毒の人間が夢見るゲームのような仕事である。すべての前提はそこに提示されていて、あとはあなたが仕事をするだけである。誰も褒めてくれないし、給料もでないが、だからこそ一から自分の手で作られた工場はつぎはぎだらけでも美しく、ロケットが飛び立つ時には大仕事をやり遂げた感慨を味わうことができる。Factorioで遊んだn時間は、あなたが自分の頭を働かせたn時間なのだ。

 

 開発がはじまってから8年、Steamで早期リリースされてから4年を経て、2020年8月、ついにFactorioは正式リリースされた。これまで一度もセールされていないので、待つ理由はなにもない。3000円を払えば、仕事以上の仕事をしたい人のための仕事ができる。ベルトコンベアとロボットアームの夢を見ることができる。その完成度は、すでに仕事を成し遂げた大勢の人達が認めるところであろう。近年、最高のゲームのひとつで、みんないい仕事をしようじゃないか。

 

2020/08/15 - 2020/09/30

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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