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毎月がクリスマス

 九月。夏休みが終わって、街は一気にクリスマス一色となった。通学路の商店街はいつものイルミネーションを今年も持ち出す。暗い街に明かりが灯る。誰もが有線放送のチャンネルを切り替える。ジングルベルジングルベル真赤なお鼻の主は夜明け過ぎに街へやってくる。なにもいいことはないけれど、僕の気分はすこし高揚する。

 

 その昔、クリスマスとは十二月だけを指したという。しかし不景気に対抗するかたちでクリスマス商戦が年々早まり、とくにイベントのない秋を飲み込んでしまった。去年、世界史の授業中に西村先生がそんないきさつを教えてくれた。今では九月から鈴が鳴る。

 

 もちろん夏は夏で裏クリスマスがある。「南半球では夏クリスマス! だからいま裏クリスマス!」という非論理的なキャッチコピーが流行ったのは僕が物心ついたころで、もう十年近く前の話だ。裏クリスマスは流行語大賞となり、そのあとも騒ぎが毎年繰り返され、今ではすっかり定着した。この十年、いろいろなミュージシャンが裏クリスマスソングを歌ってきた。裏クリスマスケーキに裏クリスマスツリー、もちろん裏クリスマスプレゼントも。もっとも、裏クリスマスを打ち出した当のファッションブランドはいまでは影も形もない。

 

 そういうわけであれこれのクリスマスプレゼントはほとんど一年中軒先に並んでいる。ラジコンの飛行船、柔らかそうなマフラー、地下鉄の模型、宝石の埋め込まれた万年筆、古代植物の図鑑、トナカイの形をしたチョコレート、次世代ゲーム機の予約票、雪だるまがあしらわれたペアネックレス。僕たちはそれを眺める。いつだって買う人はいない。誰も買わないことを知っていて、店はいつもそれを並べている。多くの人は店を畳んだ。残った人はジングルベルジングルベルと音楽を鳴らす以外、他にどうすることもできない。

 

 僕たちはもうほとんどなにも買わない。お小遣いをもらっているのはほんとうに一部の同級生だけだ。世間ではノーブランド世代と呼ばれているけれど、そもそもブランドというものがなんだか分からない。不景気という実感もない。みんな働くこともなく、お金を使うこともなく、黙々と暮らしている。

 

 帰り道「クリスマスプレゼントはなにが欲しい?」と彼女が尋ねる。「手料理かな」と僕が答えると、彼女は笑顔で頷く。たぶん難しいことは分かっている。彼女と付き合いはじめて三ヶ月。このまま半年も続くとは思えない。彼女は美しい。僕が彼女を他の男から奪ったように、もうすぐ誰かが僕から彼女を奪うのだろう。今日、僕たちがほんとうに楽しめるのは恋愛ゲームだけだ。

 

 メリークリスマス、そう言って僕は彼女と別れ家へと向かう。いま彼女がいて、毎月がクリスマス。それで十分じゃないか。たとえサンタクロースがやってこなかったとしても。

 

2009/11/30 - 2009/12/03

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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