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 東京湾で見たこともなければ聞いたこともない魚が獲れるようになり、それも大量で、なかなか味もうまいというので、私達はいつしかそればかり食べるようになった。私達の世代以降にとっては、魚と言えばもう当然その魚のことで、年寄りたちはなにやら魚の種類を呟くこともあったが、彼らも魚が美味いということには抗えず、次第に他の魚のことを忘れてしまった。

 

 魚は焼いても煮てもうまいが、新鮮なうちはやはり生が一番で、刺身や寿司にはもってこいであった。日本を訪れる外国人はすぐ魚の寿司の虜となり、サカナは次第に万国共通語として認知されるようになったが、足の早い魚は輸出には適さず、加工した魚は風味が落ちるということで、結局は日本の、それも東京で食べるのが一番ということになり、魚目当ての観光客は国内外から引きも切らなかった。

 

 毎日のように新鮮な魚を食べる私達にとって、唯一の不安は魚が尽きることであった。魚の生態は依然として謎のままで、どこからやって来て、なぜ今になって大量発生し、それがいつまで続くかは誰も分かっていなかった。私達はただ今日も魚を食べられることに感謝して、しかしその贅沢はいつまでも続くと思っていたのだった。

 

 しかし魚の時代が終わったのは、魚がなくなったからではなかった。いつからか私達の街のあちこちに茸が生えるようになって、それが焼いても煮てもうまいが生だとさらにうまい上に、魚のように調理も面倒ではないというので、またたく間に私達は茸の虜となってしまったのだった。

 

2013/11/24

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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