朝の出社時間、最寄り駅まで早足で歩いていたら、大通りから一本入った路地に行列が出来ていた。こんなところに何の店があったかな。何にせよ、朝からこれほどの行列が出来るとは、なかなかのものである。後で調べてみるか、と思った。
職場の昼休み、同期に話をしてみたら、すぐにピンと来たようだった。「あー、あれですね、いまめちゃくちゃ話題のところですよ」
なんの店なんだろう。
「私も知らないんですけど、ネットですごい騒ぎになってるんですよ。なんというか、すごく評判が悪くて」
評判が悪い? 良いのではなくて?
「悪いんです。待たされて、接客もひどくて、売り物も高くて、質も悪い、みたいな。私も自分で行ったわけじゃないんで、なんの店だか分からないんですが」
そんな話をしていたら、流行りに詳しい後輩も話に加わってた。
「あの店の話をしてます? もちろん行きましたよ。いやあ、本当に最低最悪の店です。ネットで炎上するのも当然ですよね。すぐに潰れると思いますよ」
でも今朝は行列だったよ。
「すぐに潰れるだろうから、今のうちにみんな見ておこうとしてるんですよ。先輩もみんな早く行ったほうがいいです。あれだけひどいのはめったにないですから」
「せっかくだから、週末一緒に行きましょう」と同期は言う。
じゃあそうしよう、と私は言う。
「いいなあ、私もまた行きたくなってきた」と後輩は言う。
実際、店はひどかった。評判の通りで、何一つ擁護できるところはなかった。これだけ批判されるのも当然だ。
「ね、言った通りでしょう」と後輩は言う。「私も来週、地元の友達が来るんで、連れて行くことにしたんですよ」
「騒ぎが収まらないので、来月には近くに二号店が出来るって話です」同期は言う。
じゃあ、今度はそこにみんなで行くか、と私は言う。
「ぜひそうしましょう」と同期と後輩は言った。
2022/02/16 - 2022/02/21
この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。
星新一賞入選のロボット子育て小話「キッドイズトイ」はAmazon Kindleにて100円で販売中。
清掃課のヤマさん
夏場は案件が少ない。八月は特に静かだ。会社に決まった盆休みはないが、大半の社員がこの時期にまとめて休みをとる。働いているのは、数字の足りない営業と、清掃課のヤマさんくらいである。……
虎
深夜の交番に、慌てた様子の女が現れる。「助けてください」と女。「さっき、路地裏に虎が現れて、私はなんとか逃げたけど、友人は噛みつかれて」……