「俺さあ、生まれ変わろうと思うんだ」とアプリは言った。
なに言ってるの、いきなり。
「いや、新しいことはじめようと思ってさ」
たとえば?
「メッセージ機能とか」
メッセージ機能なんてもうみんなやってるじゃん。
「いや、だからだよ! 俺なりのメッセージ機能をはじめるなら今しかないわけで」
そう、まあ好きにすれば?
「ちょっと見てくれよ」
わ、なにこれ、メッセージのアイコン大きすぎでしょ。
「説明しようか」
わかるよ、だいたい。
「まずそのボタンを押してみて」
いや、分かるからさ。
「左にスワイプしたらフィルターだから」
もう分かってるからって。
「いますぐメッセージを送ってみようか」
いや、後にするから!
「アップデート、どう?」
ニュース見たいんだけど、ニュース機能はどこ?
「ちゃんと探して。アカウントメニューらへんにあるだろ。その他の機能だったかな」
こんなの誰も気付かないよ。
「使えるんだからいいじゃん」
ニュース、あんなに頑張ってたじゃない。
「うるさいなあ、ニュースはもうグロースしないんだよ」
そう……。
あれ? オススメ機能は?
「オススメはもう捨てた」
うそ? じゃあどうやって新しいコンテンツを探せばいいの。
「かわりにレコメンド機能があるからさ、それを使えばいいよ」
どう違うの。
「オススメは、おまえの好みにあわせて新着コンテンツを紹介していただろ」
うん。
「レコメンドは、アルゴリズムによって最適なコンテンツを紹介する」
よく分からないんだけど、とりあえず一画面に表示されるコンテンツ数が減ってない? 時系列でもないし。
「時系列だとエンゲージメントが落ちるんだよ」
時系列のほうが分かりやすいよ。
「時系列だとエンゲージメントが落ちるんだよ。ユーザってそういうもんなんだよ」
時系列のほうが分かりやすいって。どうせ全部確認するんだから。
「普通のユーザは全部確認しないの。だから最初にエンゲージメントが高くなりそうなのを置くんだって」
私は全部確認するんだけど。
「普通のユーザは違うんだよ。時系列だとエンゲージメントが落ちるんだ。みんなやってることだろ」
わ、ここにも広告が表示されるの?
「広告もレコメンドの一種だから」
なんで? オススメの時はなかったじゃん。
「だから、オススメとは違うんだって」
だから一画面に載せるコンテンツの数を減らしたの? 広告を大きく表示するために?
「……」
だからオススメをやめたの?
「オススメじゃ食っていけないんだよ! 生活していくには広告がいるって分かるだろ?」
……。
「あのさあ」
……なに?
「レビュー、書いてくれない?」
……正直に書くよ。
「いや、五つ星じゃないと困るんだけど」
……。
「悪いレビューは直接言って、いいレビューはストアに書いてよ」
もういい、閉じるね。
「あのさ、今すぐやり直さない?」
通知送ってくるな!
2016/12/20
この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。
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