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兄のいない一週間

 太陽にバグが見つかって、兄は修理の旅に出た。兄は一流のエンジニアというわけではないが、旧式のコンピュータ・オタクではある。旧式コンピュータのオタクであるし、旧式のオタクでもある。今や太陽はレガシー。月もレガシー。地球もレガシー。修理できるのはオタクだけだ。兄自身もレガシーと言えるだろう。太陽なんて修理しても誰も賞賛してくれないが、誰も賞賛しないことをやるのがオタクである。少なくとも兄はそう思っている。

 

 兄の太陽旅行はいつも一泊二日だが、今回は三日たっても戻らなかった。仕方なく、私は商店街の電器屋で家事ロボットを買う。定価の半額以下だった。在庫の数がint型の限度を超えて、店員ロボットはまともな値踏みが出来なくなっている。さっそく家に戻ってロボットを起動。皿洗いを任せたら、その日のうちに二枚割った。エイジングが不足しているのかもしれない。

 

 夜中ふと外の空気が吸いたくなってベッドを出る。キッチンで物音がしたので向かうと、ロボットが割れた皿を眺めながら「一枚足りない……」と呟いていた。二枚だろ、と私は内心でツッコミをいれる。ロボットに反省機能を加えた開発者はまともではない。

 

 翌日早朝「太陽を修理中だけどなにか質問ある?」というスレッドが立つ。私は「兄貴早く帰ってこい」と書き込む。1の書き込みは途絶える。集まった懐古厨たちはすぐに去り、スレッドの勢いは停止。「1の弟でございます」と書き込もうと思ったらもう落ちていた。

 

 昼前、飼っているロボット犬がどこからか捨て犬を拾ってくる。生きている犬はロボット犬のモチーフになったとは思えぬほど元気である。私は写真を撮って兄に送る。ほどなく「命名:クドリャフカ」という返信が届く。すぐ死にそうなので却下。

 

 夜、ロボットがまた皿を割る。皿はもうあと少しになってしまった。使われることのない皿を毎日洗い続け、この結末が来る日を待っていたのかもしれない。

 

 脱出者の逮捕が続き、仕事が忙しくなる。二日ばかり家を空けていたら、犬は無断で餌の入った袋を食い破り、ロボットは皿をアロンアルファで修復し、兄は裏庭にハンモックを吊るして休んでいた。「太陽が眩しいな」兄はうれしそうに言う。私は無視して犬を風呂に入れる。もし宇宙に出ても長生きするよう、名前はジョーンズとする。「ねえ、ジョーンズ」と声をかけるとジョーンズは私のアームにガチンと噛み付いた。雌だったのかもしれない。

 

2009/06/17 - 2009/06/18

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この文章は小関悠が個人の立場で書いたもので、所属する組織などの立場や意見を示すものではありません。特に明記のない限り、この作品はフィクションです。

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