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PayPayと前澤社長、お金のバラまきから学ぶこと

簡単なほうから始めるけど、ZOZOの前澤社長から学べることはない。

 

いや、もしあなたがネットでの影響力を高めたくて、話題になりたいなあ、フォロワーを増やしたいなあ、そのためには1億円くらいポンっと使ってもいいなあ、と思うなら、今回の100万円を100人にバラまくというのは、すごく効果的だったという学びがある。

 

でもまあ、我々は100万円欲しいと思ってる側なわけで、そういう意味では学びはない。仮に同じくらいお金持ちだったとしても、二番煎じをやるのはすごく格好が悪いだろうし、やっぱり学びにならない。

 

企業としてマーケティングに活用できないかと思っても「お金をドンと使って影響力を高めた人・ブランド・会社」という評判が欲しいかというと、そういう評判は創業経営者くらいしか似合わない。個人はともかく、企業がフォロワー数をKPIにするのなんて、何周遅れの話だって感じだし。

 

だからやっぱり学びがない。でも創業経営者ってすごいな、とは思った。ふつうのマーケティングではできないことを、有名人が率先してやってくれるのは、見るぶんにはすごく面白い。おわり。

 

それで、本題のPayPayについては、すでにいろいろな議論がある。

 

まずPayPayの20%キャッシュバック、総額100億円の還元というのは非常にインパクトがあるけれど、還元されたポイントがどこで使われるかというと、PayPayで使われる。還元といいつつ、そのお金はエコシステムから逃げない。だからユーザー獲得施策でありつつ、取扱店舗開拓の施策にもなる。賢い。学びがある。

 

とはいえ、他の決済・ポイントサービスに目を向けても、数%のキャッシュバックキャンペーンなど日常的に行われている。中には100億円にはまったく収まらない規模のものもある。

 

外食業界でも、自動車業界でも、旅行業界でも、割引、キャッシュバック、期間限定ポイントアップなどの「お客様還元策」はマーケティングとしては原始的なもので、PayPayのキャンペーンもそういう意味では別に新しくない。

 

PayPayの新しさは、100億円という規模にあるのではなく、ダラダラ・チマチマと還元するくらいなら、一気に還元したほうが盛り上がるのでは、という気づきにある。狙っていたのかはさておき、ローンチしたばかりのサービスの負荷テストにもなった。

 

だって、マーケティングをやる側からすれば、予算ってどれだけあっても足りないものだ。だからついつい色々な媒体で、長い期間、多くの人を対象に、ケチケチ使いたくなる。一つ施策が失敗しても、他の施策で挽回できるように、保険をかけたくなるものだ。

 

そこを、結果的には10日ほどで終わり、アーリーアダプター層にしか届かないのでは、みんなビックカメラでMacを買うだけでは、という不安を見据えた上で、どーんと盛り上がりを作った覚悟には、学ぶところがある。

 

それに、「本気になれば10日で100億還元する」というメッセージは、競合には大いにプレッシャーになっただろう。

 

しかししかし、PayPayの騒動でそれ以上に重要だったのは、PayPayのアプリがよく出来ていたことだ。

 

もちろん、クレジットカードの悪用が問題になったとか、電話番号が替わるとアカウントの移行も出来ないのかとか、完璧でない部分もあった。そもそもQRコード決済って便利かという話もあった。それでも、登録から決済までの全体の完成度はすごく高かった。

 

100億円の還元は終わってしまったので、他の決済サービスが別の還元キャンペーンをやれば、ユーザーは躊躇なくそちらへ乗り換えるだろう。PayPayでMacを買って全額還元になった人も、還元されたポイントを使いきったら、あとはPayPayを使い続ける義理はない。

 

しかし、決済プラットフォームって本来は一つあれば十分なのだ。使いやすくて便利でどこでも使えるものが一つあればいい。だからこそ、PayPayの完成度が高かったというのは重要で、増え続ける決済プラットフォームのライバルにとってはこれから高いハードルになる。もし他の決済業者がもっと大規模なキャンペーンを行っても、「なんかPayPayのほうが使い勝手が良かったな」と思われたら、それで負けである。

 

悲しいかな、広告を含めてマーケティングにたくさんお金をかけているのに、肝心の商材の完成度が低いものって、世の中にはたくさんある。本当に当たり前のことだけど、これだけのキャンペーンをやるなら、もとの商材は完成度の高いものでないといけない。その大原則がPayPayではちゃんと守られた。それこそが一番の学ぶべきことではないか。マーケティングは、商材に問題があるときに一発逆転を狙うものではないのだ。

 

あと、今回のPayPayと前澤社長という、まったく関係のない2つの事象を並べて、個人にお金をバラまく時代が来たとか、従来型の広告はもう終わりみたいなことを言ってる人は、マジでどうかしてます。

 

もちろん、世の中には「こんな広告なら、やらなかったほうが良かったのでは……」みたいな例はあるわけで、揶揄として「金をバラまいたほうがマシ」と言われることはあるだろう。でもX円の予算でX円以上のリターンをどう作るかがマーケティングの仕事であって、直接のバラまきではあまりに効果が小さすぎる。実際、PayPayもバラまきながら、その効果を大きくするため、広告を並行して出しているわけで。

 

でも、流行りのキーワードに流されて、効果の不透明なマーケティング施策が生まれては消えていくのがこの業界の常なので、今後も形だけのバラつき策が増えるんでしょうね。ゾクゾクします。

 

2019/01/08

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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