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面接をハックする:能力のこと

就職活動や転職活動は、受ける側にとっては人生を左右する大変なプロセスであるが、一方で採用する側にもしんどいイベントである。

 

経営者にとって採用というのはコストであり、仕事が回るならば、人は少ないほうがいい。労働者も、同僚が多いほうが仕事は楽になると思いつつ、だいたい誰に聞いても、大企業で働くよりは小さな企業で働きたいと言うのである。

 

それでも採用するということは、要は仕事がたくさんあるので、助けて欲しいということだ。だから、いままさに困っている仕事を片付けてくれそうな人がいたら、企業はふつう、躊躇なく採用する。なので、再び企業を受ける側に立ってみれば、自分はこの会社を助ける能力があるだろうか? というのが面接で答えるべき問いになる。

 

求人票を見る

幸い、転職活動においては、それぞれの仕事でどういう能力が求められているか、求人票(job description)にちゃんと書いてある。残念ながら、中には曖昧な求人票もあれば、無意味に高いハードルを掲げるようなものもあるが。言う間でもなく、お互いのために求人票はなるべく正確なものを書くべきである。

 

余談だが、新卒でも「やる気のある人を募集します!」的な一括採用ではなく、部署ごとの採用を行い、それぞれで求人票を分けるべきだろう。エンジニア採用であれば、最近は新卒でも特別な採用プロセスを行い、特別な待遇で迎える例が増えている。同じことが、なぜ他の業種で推し進められないのかは不思議だし、エンジニア以外の専門性が舐められてるのではないか。

 

閑話休題、求人票を見れば、色々なことが書いてある。「5年以上のマーケティング業務経験」とか「HTML, CSSなどのウェブ関連知識」とか「TOEIC 700以上」とか「自発的に行動できる人」とか「MBAがあると良い」とか。

 

こうした能力は「必要」あるいは「あると良い」と教えてくれているのだから、実際その能力があることを証明していかなければならない。また、能力がないなら、そのかわりに何が出来るのかを一層アピールしなければいけない。

 

アピールをする

一番良いのは、業績などを持って、能力は自明だと示すことである。もし「将棋に強い人募集」と求人票に書いていて、羽生善治が面接に現れたとしたら、「それで、将棋はどれくらい強いのですか?」と聞くだろうか。(こう書くと冗談みたいだが、大勢を面接をしていると、時々そういう候補者と出会うこともある)

 

友達の紹介も能力を示す材料として重要だ。ベンチャー企業の多くが人づてで採用を進めていくのも、結局それが一番間違いない方法だからである。万が一なにか間違いがあったとしても、なにが間違いだったかは分かる。(つまり「あの人の紹介はアテにならない」)

 

能力がそれほど自明ではない場合、職歴や学歴に頼ったり、それもなければ、こういう経験があったとエピソードを話す必要がある。

 

だいたいの求人票には5件から10件くらい「あれが必須」とか「これがあると良い」と募集要項が書いてあるので、最低でもその半分、出来れば8割方は、その能力があると説明できるようにしておきたい。

 

また、どれだけエピソードを作り込んだとしても、全ての要項について「私はできると思います」で通すのは弱い。業績、経歴、友人からの推薦などを組み合わせ、自分で自分の能力を証明する場面は少なければ少ないほうがいい。そもそも前後関係を考えれば、そのような説明ができるような求人票に応募すべき、とも言える。

 

本当に時々、自分は求人票に書かれているようなことはほとんど満たしていないのだが~という感じで面接に来る人がいる。こちらは履歴書など読んだ上で、なにかここに書かれていない経験でもあるのかなと好意的に考えていたりするので、そういう正直な人が来るとびっくりしてしまう。残念ながら落とすしかない。

 

反対に、話を掘り下げてみると能力があるのに、それをアピールしない人もいる。「求人票には5年の経験が必要とありましたが、4年9か月しか働いていないので……」みたいな人である。シェリル・サンドバーグが書いていたと思うが、特に女性は「自分は完璧でないのでこの募集には向かないかもしれない」と考えがちらしい。勿体ない。

 

誠実さ

実際のところ、完璧な候補者はほとんどいない。いたら、何も考えずに採用すればいい。採用が難しいのは、ある候補者はあれが得意だけどこれの経験がない、別の候補者はその反対、みたいな時に、どちらを採用するか判断しなければいけないからである。

 

だから面接する側としては、面接では自分の能力については正直に、何ができる、何ができないと教えて欲しいと思う。エピソードで「盛る」こともあるだろうし、良いエピソードがあれば能力以上に実績をアピールできることもあるが、あまり盛りすぎて仕事が決まっても後で困るのは自分である。

 

答えあわせ

面接がどれだけ盛り上がったとしても、終わってみれば求人票の募集要項にマッチしているかを判断されるのが普通である。「TOEIC 700以上」と募集要項にあって、「英語はできますか」と面接で聞かれたら、○なのか△なのか☓なのか答えなければいけない。○だったら実績なり経験をアピールすればいい。△や☓なら、このごろ英会話スクールに通ってるので伸びているところですとか、英語はできませんが中国語がちょっとできますとか、そういうことを説明する。

 

面接をハックするという話を書いていて今更言うのもなんだが、就職活動でも転職活動でも、そのもそも面接以前に書類選考というのがある。募集要項に対応するように自分のプロフィールを作るというのは、書類選考でこそ必要な考え方かもしれない。

 

また時々、「TOEIC 700以上」と募集要項にあるのに、英語について聞かれないこともある。実績から判断されているのかもしれないし、次の面接で聞かれるのかもしれないが、ただ忘れているだけかもしれないので、出来れば聞かれなくても、どこかで説明したほうが良い。質問時間のあいだで自分から聞いても良い(「募集要項に英語力について書かれていましたが、英語は業務で使うのでしょうか? いや実は私は英語には自信があって~」)。

 

能力を掛け合わせる

新卒など募集要項がはっきりしない場合についても書くと、これはもう持っている能力についてアピールして、それが刺さることを祈るしかない。

 

頭抜けた能力があるならば、それ一つでもいいが(「将棋で七冠の経験があります」みたいな)、そうでないならば最低二つ、できれば三つアピールしたい。決してエキスパートとは言えない能力でも、掛け合わせればユニークであることはアピールできることが多い。

 

たとえば、私はよくデータサイエンティストの職に興味がないかと言われるのだけど、正直そんなデータ分析の能力はない。でもプレゼンはできるので、たとえばデータ分析の結果をわかりやすくプレゼンする仕事はできる。英語でもたぶんできる。そうやって条件を重ねていって、他にできる人が少なそうな分野で戦うのである。

 

完璧でない人間なので

面接をしたりされたりするといつも思うのだが、我々の大半は超人ではない。就職活動や転職活動に勤しむ人間は特にそうである。

 

例えば、世界で一番将棋がうまければ棋士になれば良く、世界で一番数学ができるならば就職活動はきっと不要なのである。超人ではないからこそ、下調べをしてエピソードを考え、自分の能力はなんなのかを見極めて正直に伝える必要があるのだと、私は思う。

 

 

その上で、なんでこんなことを三回にも渡ってわざわざ書いたかというと、面接を受ける側はあれをすべきこれをすべきという趣旨ではなく、本当に言いたかったのは、面接をする側はちゃんとやれよ、ということなのだ。すごい経歴の履歴書だけに惑わされるんじゃないぞとか、あれも出来ますこれも出来ますという人を信用するなよとか。

 

だいたい、面接を受けるほうというのは、それなりに人生がかかってるわけで、八割方準備をするものである(その準備が適切で十分かはさておき)。一方、面接をする側はどれだけがちゃんと準備しているだろうか。ちゃんと求人票を準備して、履歴書を読んで、適切な質問をしているだろうか。

 

これまで書いてきたのは、個人的なアイデアなので、どこまで普遍性のあるものかは分からないけれど、みんながこうやって面接をハックするようになれば、面接をする側ももっとちゃんと考えるようになるのではないかしら。とりあえずそんなことを期待しています。

 

2018/08/13 - 2018/08/23

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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