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2018年のダンシング・ヒーロー

2018年、心に残った出来事の一つが、ジオシティーズ閉鎖の発表であった。正式名Yahoo! ジオシティーズは、2019年3月末に終了する。楽天傘下となっていたiswebライトが終了したのは2010年の10月末のことだから、それに比べればずいぶん長生きしたほうだろうか。

 

同じころ、はてなダイアリーも来春に終了することが発表された。こちらは原則、はてなブログへ自動移行されることになる。さすがはてな、と褒めておきつつ、そもそも個人でウェブサイトやブログを持つこと自体が時代遅れになってきた感は否めない。

 

インターネットに初めて触れてから20年以上が経ち、インターネットが永遠でないことをますます意識するようになった。そんなの当たり前と思われるかもしれないけど、少なくとも昔は、私も含めてみんなもっと楽観的だった。ぜんぶデジタルなんだから、永遠は無理でも、まあ私が生きているくらいあの間は残り続けるものだと、特に疑うこともなく思っていた。

 

子供の昔の写真を見返すと、あのころもっと撮っておけば良かったと思うように、あのころのインターネットについて、もっと魚拓やスクショをとっていれば良かったと思ってしまう。

 

コンテンツだけではない。私が一時期ずっと身につけていた活動量計のJawboneは、ある日とつぜんサーバーと同期しなくなり、会社は倒産し、ガジェットは文字通りのゴミになった。自分のデータを取り戻す猶予さえ与えられなかった。

 

そうこうするうちに、インターネットのコンテンツはそもそも自分たちで消えていく時代になっている。SnapchatやInstagramストーリーは消えても、思い出は残るのだろうか? TikTokに気合の入った動画をたくさん投稿している人たちは、どこかにバックアップを取っているのだろうか?

 

あるいはそもそも、データとは消えていくもので、本を自炊したり、CDをリッピングしたり、とにかくあらゆるデータを保管していこうというのがニッチな考えかただったのだろうか? どうせみんな死ぬんだし。

 

ところで、私は日中、アメリカ産のヒップホップばかり聞いているのだが、この種の音楽がヒットソングの主流になってから、今どきのラッパーが懐かしヒットをサンプリングに使い、新旧世代をどちらも取り込むというのがマーケティング戦略になってきている。

 

今年は映画「レオン」のエンドテーマでもあるStingの”Shape of My Heart”を、Juice Worldがサンプリングに使ってヒットした。ラッパー本人はサンプリングのもと曲を知らなかったらしいが。

 

 

それでなくても、アメリカのドラマや映画には懐かしのヒットソングで溢れている。その到達点が「glee/グリー」で、例えばJourneyの”Don't Stop Believin'”はもはや現代アメリカのアンセムになっている。もう40年近く前の曲なんだけど。

 

それに比べると日本の音楽業界は、紅白歌合戦を見ても、演歌層と最新ポップ層の断絶があって、懐かしポップの掘り起こしというのはないよなあと思っていた。でも、子供がなんの影響か「ダンシング・ヒーロー」を歌うようになって、おお、そういうリバイバルもあるのか、と思ったのも今年の出来事であった。TikTokでは「め組のひと」が流行ったらしい。80年代!

 

そう考えると、コンテンツがどんどん消えていく時代に我々ができることは、インターネット原体験を語り継いでいくことなのかもしれない。お父さんはタグを手打ちできる。お父さんはスレ立てもできるんだ。お父さんは友達のサイトのカウンターを回してあげてたんだよ。「1995年はすごかった The Game」を遊んでみるとわかる。1995年はすごかったから。

 

インターネットが変わりつつあるいま、そうやってみんなが語り部になっていかなければ、たぶんこの20年の歴史はほとんどなにもなかったことになってしまうだろう。インターネットが生まれて、アマゾンでなんでも買えるようになりました、みたいな。あのころのインターネットが消えていくのなら、もはやお前こそがあのころのインターネットなのだよ。ということにしたいのですね。ぬるぽ。

 

(この記事は2018 Advent Calendar 2018の2日目の記事として書かれた。昨日は主催のtaizoooさん、明日はokudzukeさんです)

 

2018/11/22 - 2018/12/02

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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