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もし参議院選挙が確率に支配されていたら

（小説が大半の本コーナーにあってこの文章はノンフィクションですが、いつものとおり所属する団体の意見を代表するものではありません）

　参議院選挙で気になったのは、投票率が57.02%に留まったことだ。これは前回2007年の参議院選挙より1%ほど低い。かつて40%台まで落ち込んだことを考えれば低い水準ではないかもしれないけれども、民主党が与党になってはじめての国政選挙であったこと、景気対策、対米関係、社会保障、財政再建、税制問題などトピックが十分にあったことを考えれば、もうすこし高い投票率でも良かったのになと思う。

　なぜ投票率が上がらないのか。それはたぶん、自分の投票が政治を動かすという実感を抱きにくいからではないか。「一票の重み」という表現があるが、国政選挙で一票が当落を決めることはまずない。そんな中で、落選しそうな候補に投票しても無駄、もしくはその反対に当選確実の候補に投票しても無駄、と考える人がいてもおかしくない。衆議院のような小選挙区制、あるいは参議院の一人区では、特に死票が多くなるため、この傾向は強まるはずである。

　死票をなくす仕組みはないだろうか。自分の投票が選挙結果に影響を与えるという実感を作ることはできないか。以前、友人の手塚さんと議論をしていて、私は「候補者を得票数に応じた確率で選ぶ」という試案（以下、試案）を思いついた。たとえば三人の候補者が五万票、三万票、二万票を得たとする。ふつうは五万票を得た人が当選だが、試案では五万票を得た候補者は50%の確率で当選する（全体で十万票のうち五万票を獲得したため）。三万票の候補者は30%、二万票の候補者は20%である。試案の特長は、最後の一票まで選挙結果に影響を与えることである。そして一票でも得た候補者は当選の可能性がある。

　というわけで、試案が実際に導入された場合の選挙結果を実際に計算してみた。候補者情報や得票数は「Yahoo!みんなの政治」のデータを利用している。対象は47都道府県の選挙区、73議席である。比例区は対象外とした。まずは結果を以下にまとめる。

民主党は変わらない。いずれにしろ良い結果ではなかったことが分かる。しかし自民党は民主党をさらに下回り、20議席に留まる。かわって、みんなの党、共産党が多くの議席を獲得する。公明党は1議席少なくなり、社民党、諸派、無所属が1議席づつを得る。

実際の結果と比べると自民党の議席が少なすぎ、その一方で、みんなの党・共産党の議席数が多すぎると感じられたかもしれない。では以下のデータと比較するとどうだろうか。

試案で得る議席数の割合、党派ごとの全選挙区での得票数累計、および得票率を併記した。民主党の28議席というのは、ほぼ全国での得票率と同じだ。自民党は33%の得票率なので、これに従えば試案のように20議席では少なく、かといって39議席は多く、24議席くらいが妥当だっただろうか。

そして、みんなの党、共産党は確かに運を味方にしたようだ。12議席、8議席というのは出来すぎで、得票率からいえば7議席、5議席程度である。確率で決めるため、試案では「運の良い候補者・政党」「運の悪い候補者・政党」が出てくることは避けられない。

「一番得票した候補が当選出来ないなんて」という試案への批判はあるだろう。しかし、だからといってその他の候補者への票が死票になっても良いのだろうか。民主主義とは多数決なのか、というのは難しい問題である。見てのとおり、この選挙制度では中小の政党が有利になる。はたしてそれがいいことなのかという議論もある（私はどちらかというと二大政党制の支持者である）。正しい選挙制度とはなんだろう。

この議論は一種の思考実験であり、実際にこのような選挙制度にすべきだとか、このような結果になるべきだったと言っているわけではない。もしこの制度で選挙が実施されていたなら、各候補者の得票数も大きく変わり、結果もここに記したものとは異なるものになっただろう。また、この制度でいわゆる「一票の格差」問題は解決しない。しかし少なくとも、投票率は上がり、選挙への関心は高まるのではないかと思う。どうすれば選挙に意義を感じる人が一人でも増えるか、ほかにいいアイデアはないだろうか。

ご意見、ご感想はTwitterの@youkosekiまで。参考までに、以下に各選挙区での結果を掲載する。大半の選挙区でほぼ得票数に応じた結果となっている一方、本当にこのとおりだったら阿鼻叫喚だったろうなという選挙区がいくつかあり、公平とはなにかを考える材料として、なかなか興味深いのではないか。

2010/07/12

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この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。

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