昨日、S系統のバス乗ったんです。バス。
そしたらなんか人がめちゃくちゃいっぱいで座れないんです。
で、よく見たらなんかソフト帽をかぶった二十六歳くらいの男が、
誰かが横を通るたびに隣の奴が乱暴に押してくる、とか言ってるんです。
辛辣な声を出そうとしてるけれど、めそめそした口調になってるの。もう見てらんない。
おまけに隣に立った奴といつ喧嘩が始まってもおかしくない。
もうね、アホかと。馬鹿かと。
お前らな、押した押さない如きでバスで揉めてんじゃねーよ、ボケが。
バスってのはな、もっと安穏としてるべきなんだよ。
女子供のこと考えて、すっこんでろ。
男は席があいたのを見て、あわてて座りに行くの。おめでてーな。
お前な、150円やるからその席空けろと。
ちょうど席が空いたので私は座った。
それからしばらくして、私は気づいてしまった……。
男は帽子をかぶっている……。
リボンの代わりをした紐つき……帽子……。
一方、男の首は引き伸ばされたようにひょろ長かった。
二時間後、サン=ラザール駅前のローマ広場で、朝の男と連れの二人組を見かけた。
なんか連れの男がデカイ声で
「貴様は〜〜〜!!
だからコートにもうひとつボタンを付けたほうがいいというのだ〜〜〜!!
この〜〜〜!」 ともう片方の首を絞めていた。
本当にありがとうございました。
2009/03/04 - 2009/04/17
この文章は小関悠が書いた。特に明記のない限り、この文章はフィクションであり、私と関係がある、もしくは関係のない、組織や団体の意見を示すものではない。
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